会長声明「学会を活用した高度技術人材の育成・活躍をめざして」
2025年3月12日
一般社団法人 情報処理学会
会長 森本 典繁
情報処理学会 会長声明
「学会を活用した高度技術人材の育成・活躍をめざして」
情報処理学会は、1960年の設立以来、発展する情報処理分野で指導的役割を果たすべく活動してまいりました。近年急速に発展しているデジタル化の社会の中心となる、インターネット、データ・サイエンス、生成AIを含む情報処理技術分野の基盤技術から応用まで幅広く扱う国内最大級の学会であり、その責任と自覚を持って活動しております。
当学会には企業に勤める社会人のほか、多くの学生会員、ジュニア会員もおり、初等教育から高校、大学、大学院までの児童、生徒、学生が積極的に参加しており、それぞれが活発に学会活動を行っております。こうした会員の多くは企業に就職し、デジタル社会を支える高い専門性を持った人材となって活躍しています。
さて、現在の企業の新卒採用のプロセスを鑑みますと、これらの専門性を育む学生にとっては、本来学習や研究に最も時間を費やすべき大事な時期に、就職活動やインターンシップに多くの時間を割かなければならないという現状があります。一方で企業側から見ますと、オンライン・イベントや会議の普及により、特に採用活動に際しては、学生との直接的な接点の減少やマッチングの機会が少ないことが課題になっていると考えます。
このような状況は、情報処理分野に限らない社会的な課題であり、企業、大学、学生がそれぞれ単独で解決できる問題ではないと認識しております。この問題を放置していては、将来にわたって日本の高度技術人材の質の低下を招き、ひいては日本の国力にも悪影響を与えることになると憂慮しています。
当学会といたしましては、こうした状況をふまえ、以下のことを企業、学生、大学へ向けてそれぞれに提案させていただきたいと存じます。
(1) 企業の方々への提言
大学は学生にとって、社会に出て活躍するための知識や技術を身につける場であり、特に就職前の卒業研究の時期は、自分の学習や研究を深め、専門性を高める大変重要な時期です。そのような時期に長期間、就職活動に時間を取られる状況は、これから学生たちを社員として迎える企業にとっても決してよいことではないと考えています。経済団体におかれましては、就職活動の拘束期間の短縮等、学生の負担を軽減するための方策を検討願いたいと考えております。
その一方で、アカデミアと企業の間に立つ学会をより活用して、企業と大学・大学院がコミュニケーションする場をもっと増やしてはどうでしょうか。産学双方で社会が求める人材をさまざまな角度で議論することで、大学・大学院もその意見を教育や研究の現場に取り込むことができ、より企業の要望に合った人材を育成できると考えます。
さらには、学会としては、学会発表等の場を優秀な学生と出会い、その能力・成果を確認する場としてだけでなく、企業の魅力をアピールする場としてももっと活用していただけるよう努力をして参りたいと考えていますので、企業の皆様のより積極的なご参加を期待したいと思っております。
(2) 学生の皆様への提言
コミュニケーションのオンライン化により、学生のみなさんと企業がお互いを直接知る機会減ってきています。そこで、企業からも多くの方の参加がある学会をみなさんの能力や成果をアピールする場としてもっと活用してはどうでしょうか。そして企業の技術者の方々とコミュニケーションを通して、みなさんがめざす理想の仕事やロールモデルに巡りあう機会もできますし、これから社会で活躍するために必要な能力とスキルについて考えを深める機会にもなります。こうした場を提供するために、当学会では、大会開催期間中に「キャリア研究セッション」を設けて、企業と就職を考える学生との交流会を開催したり、 24年度には新たに日本機械学会と一緒に「理工系女子学生のためのキャリアフォーラム」という交流会を開催したりしています。今後もさまざまな新しい試みを進めていきますので、皆様の積極的な参加を期待しております。
(3) 大学関係者の方々への提言
情報処理技術は、さまざまな産業分野や社会のインフラを繋ぐ重要な基盤技術です。そして、そこで求められる技術者の能力や知識は大きく変化しています。また、学生のみなさんにとって就職は社会で活躍するための出発点ですので、進化し続ける社会に適応していく能力をつけて社会に送り出す必要があります。こうした観点から、大学・大学院において学ぶべき能力・スキルを企業と連携して整理し直していく時期にきていると考えます。そこで、アカデミアと企業が共に活動している学会という場を活用し、企業と共にこうした議論を深めていくのはどうでしょうか。学会でも、そうした場を広く提供していきたいと考えます。
最後に、これらの提言は、企業、大学、学会が連携することで日本の情報処理を中心とした分野の競争力を高める意図でまとめたものです。学会はそのための場と機会を広く提供していくための役割を担っていると認識しており、企業と大学の皆様の交流を深める活動にこれからも力を入れていきます。これらの提言が、少しでも日本における情報技術分野の進展に貢献できることを願うと同時に、他分野においても課題解決の一助としていただければ望外の喜びであります。