ナチュラルコンピューティング(NC)研究グループ新設のお知らせ

ナチュラルコンピューティング(NC)研究グループ新設のお知らせ

目的

近年、計算機科学の境界領域において分子計算や量子計算のような新たな計算パラダイムに関する研究が盛んに行われている。また、"計算"の概念は計 算機科学のみならず他の自然科学領域においても例えば、撞球計算(reversible computation)、セルラオートマトン、パタン形成(BZ反応や粘菌を用いた計算、アモルファス計算)、ニューラルネットワークなど多岐にわたる 考察がなされてきた。しかし、これらの研究では"計算"という言葉は用いられてはいるが、その定義は曖昧であり方向性もそれぞれに異なっている。
一方で自然系、特に生命科学の急速な進展は、新たな計算の概念や枠組みを求めている。例えば、細胞内の情報伝達系(シグナル伝達系)では、少数の分子から なる系が拡散や能動輸送を用いた情報伝達を通し細胞システムの制御を並列かつ自律的に行っている。また近年、生態系における情報処理系が生態系の安定性や 多種共存に重要な役割を持つことが明らかになってきたが、そこでは、植物、害虫、天敵の3者が植物の生産する匂い化学物質を介し相互作用を行っている。こ の系でもシグナル伝達系と同様に拡散と能動輸送に対応するしくみがあり(天敵の化学物質に対する感受性等が対応)、情報伝達を介して系の制御が自律的に行 われている。この例のように自然系における情報処理では、あたかも基本構造が存在しているかのような類似が多い。
このように、現象面からみると自然系における情報処理は興味深い問題が多く存在するが、それらを考察するための計算の概念や枠組みは未だチャレンジであ る。なぜなら、これら自然系では多くの場合、系を構成する要素数が少数であり、離散性が系の振る舞いにとって重要な意味を持つ。だが、我々は計算過程の離 散力学系を扱うに十分な枠組みを持っていない。もし連続系に近似して考えるとしても、多くの自然系は非平衡系であり非線形性も高いため、結局のところ差分 法などによる離散化を介した数値シミュレーションが重要な解析手法となる。しかし、かかる非線形な連続系の差分化は可積分系などの限られた系でしか厳密な 方法が知られておらず本質的な困難がある。
本研究グループは、自然系を扱うための新たな計算の概念や枠組みについて考察し、その活動を通して、自然系を計算という観点から理解し、新たな情報処理技術の創造へと繋げていきたい。

ナチュラルコンピューティング研究グループWebページ : http://qwik.jp/natural-computing 
 

主な研究分野

◇ミッション
本研究グループの目的は"触媒"となることである。グループの活動を契機とした分野横断的な研究者間の議論や共同研究を通して新たな研究分野となり得る萌 芽的研究が生まれるような環境づくりを目指す。そのため、グループの活動についてもより自由で機動性に富んだ活動を行うことに留意する。

◇スコープ
"計算"の概念は、狭義にも広義にも定義できる曖昧なものである。本研究グループのミッションは"触媒"であり、その対象とするスコープについても多様であることを認めることとする。

○新しい"計算"パラダイムとその応用:物理化学系や自然系を用いた"新しい計算パラダイム"の創造、またそれらを用いた計算デバイスなどの応用。
反応拡散計算(撞球計算、デバイス、パタン形成・設計)、BZ反応デバイス(回路など)、アモルファス計算、粘菌による計算、計算としての複雑ネットワー ク(社会ネットワークや生物ネットワーク等の構成原理と"計算")計算としての自然系(生態系の自律的制御のメカニズム、自然系のデザインとしての農 学、"計算"としての動物行動学など)

○新たな計算理論の模索:かかる"新しい計算パラダイム"の計算モデルとしての定式化、そしてその計算理論。
DNA計算とその計算理論、化学計算の定式化とその計算理論、"新しい計算パラダイム"をベースにした新たな計算モデル・理論の構築など。

○計算モデルの実装:計算機のみならず物理化学系や生物系を用いた実装。
計算モデルの計算機への実装(言語設計などを含む)、物理化学系としての実験ベースでの実装、生物系としての実験ベースでの実装。

○少数粒子系の数理と応用:化学系、生体内における分子間相互作用系や生態系、社会系(渋滞、歩行者)などでは少数性や離散性が重要な意味を持つ。かかる少数粒子系に関する数理と応用について考察する。
大自由度少数分子化学反応系の理論(分子数が少数でかつ3種以上の化学種から構成される系)、超離散化・クリスタル化(連続→離散)、トロピカル化(離散→連続)、Bioinformatics、および、Systems Biology(細胞内シグナル伝達系など), 渋滞(traffic jam, 生体分子における渋滞現象)。

提案者(五十音順)

浅井哲也(北大)、有田正規(東大)、上田和行(早大)、片井 修(京大)、小林 聡(電通大)、榊原康文(慶大)、櫻井建成(東海大)、杉山雄規(名 大)、鈴木泰博(名大)、高林純示(京大)、時田恵一郎(阪大)、戸田幹人(奈良女子大)、中垣俊之(北大)、野村慎一郎(東京医科歯科大)、萩谷昌巳 (東大)、藤原義久(ATR)、堀江亮太(理研)、三池秀敏 (山口大)、元池育子(はこだて未来大)、守岡知彦(京大)、森田憲一(広島大)、森山 徹 (はこだて未来大)、山口智彦(産総研)、山下雅史(九大)、山村雅幸(東工大)、横森 貴(早大)、吉川研一(京大)、Andrew Adamatzky(Univ. of the West England,U.K)、Gheorge Paun(Romania Academy)、Klaus Peter Zauner(Univ. of Southampton, U.K.)、Peter Dittrich(Freidrich-Schiller University, Germany )