2024年度受賞者

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2024年度コンピュータサイエンス領域功績賞受賞者

コンピュータサイエンス(CS)領域功績賞は,本領域の研究会分野において,優秀な研究・技術開発,人材育成,および研究会・研究会運営に貢献したなど,顕著な功績のあったものに贈呈されます.本賞の選考は,CS領域功績賞表彰規程およびCS領域功績賞受賞者選定手続に基づき,本領域委員会が選定委員会となって行います.本年度は10研究会の主査から推薦された下記10件の功績に対し,本領域委員会(2024年10月18日)で慎重な審議を行い決定しました.各研究発表会およびシンポジウムの席上で表彰状,盾が授与されます.

横田 治夫 君 (データベースシステム研究会)
[推薦理由]
 本会正会員横田治夫君(フェロー)は,早くから高信頼で高効率な情報の蓄積と蓄積された情報の高度な活用に関する研究に従事し,これまでに先駆的な研究業績を数多く残している.第五世代コンピュータにおける並列関係データベースマシンや演繹データベースの研究から,科学技術振興機構の CREST 等を通して,高信頼・高性能ストレージシステムの構成,並列データベースシステムの負荷分散,インデックス,同時実行制御,コミットプロトコル,あるいは XML の蓄積・検索手法等々に関し先進的な研究成果を出し,PODS,ISCA,ICDE,EDBT 等のトップレベルの国際会議において発表すると同時に,武田研究奨励賞最優秀研究賞,FIT論文賞,複数回のDEWS論文賞およびDEIM論文賞等を受賞している.これに加え,データ工学に関する書籍(「電子カルテデータ解析: 医療支援のためのエビデンス・ベースド・アプローチ」共立出版 (2022年3月10日))を執筆するなど,データ工学技術の普及,教育にも貢献されている.
 また, ICDE,DSN,PRDC,DASFAA 等の大規模な国際会議のローカルアレンジメント,プログラムといった各種委員長を務めると共に,電子情報通信学会データ工学研究専門委員会委員長,ACM SIGMOD日本支部長,日本データベース学会理事および会長,情報処理学会論文誌:データベース(TOD)共同編集委員長等の要職を歴任しており,国内外の学会活動にも多大な貢献が認められる.
 このように,横田治夫君は,我が国のデータベースコミュニティの発展に極めて顕著な貢献をされており,CS 領域功績賞に相応しい人物として強く推薦する.
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山本 里枝子 君 (ソフトウェア工学研究会)
[推薦理由]
 本会正会員 山本里枝子氏は,我が国のソフトウェア工学研究開発と実践を代表する研究者の一人であり,当該分野における企業の立場や視点からの研究と実践,社会展開,学会活動等に,長年に渡って大きく貢献されるともに,女性研究者としてのロールモデルとして活躍されてきた.研究と実践においては,要求工学やオブジェクト指向設計・プログラミング,ソフトウェアの部品化・再利用,開発の自動化や環境など,当時最先端の研究トピックに,実践上の課題を克服する形で取り組まれ,RE,EDOC,SERVICESなどの代表的な国際会議論文を含む数多くの成果をあげるともに,企業において大規模に展開され,組織的な実践や技術展開を推進されてきた.書籍『ソフトウェアパターン:パターン指向の実践ソフトウェア開発』の執筆をはじめとして,研究・実践の成果の社会展開に成果をあげている.学術の振興や関連分野の発展,学会活動の活性化に対しても多くの貢献をされており,日本学術会議会員(2017年〜2023年),UMLモデリング推進協議会副会長,日本技術者認定機構(JABEE)理事,また本会において,ソフトウェア工学研究会幹事やソフトウェアエンジニアリングシンポジウム委員長,マルチメディア・分散・協調とモバイル(DICOMO)シンポジウム委員長,理事(2008年度~2009年度),監事(2016年度~2017年度)などを歴任されてきた.そうした多数の活動を,企業の女性研究者として長年にわたり推進され,女性研究者がリーダーシップを発揮する模範を示され,ソフトウェア工学をはじめとしてICT分野における女性の活躍を後押された点が特筆に値する.以上のことから,山本里枝子氏は我が国のソフトウェア工学ならびに関連コミュニティの発展に極めて顕著な貢献をされており,CS領域功績賞に相応しい人物として強く推薦する.賞に相応しい人物として強く推薦する.
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新田 高庸 君 (システム・アーキテクチャ研究会)
[推薦理由]
 新田高庸氏は,我が国のコンピュータ・アーキテクチャ分野に対して,研究活動と学会運営の両面において,大きく貢献を続けている人物である.特に映像符号化およびその高速化技術の分野において優れた成果をあげている.また学会運営の面でも,2020〜2023年度にシステム・アーキテクチャ研究会の幹事,2011~2014年度の同運営委員を務め,産業界での実務経験を活かしながら,当研究会の活性化に大いに貢献した.また集積回路や高性能計算などのコミュニティでも存在感を発揮しており,コンピュータ・アーキテクチャの境界領域における交流の活発化に対する貢献も非常に大きい.以上のとおり,同氏によるシステム・アーキテクチャ研究会ならびにコンピュータ・アーキテクチャ分野に対する貢献は極めて大きいことから,CS領域功績賞の受賞候補者にふさわしいと判断しここに推薦する.
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河野 真治 君 (システムソフトウェアとオペレーティング・システム研究会)
[推薦理由]
 本学会会員の河野真治氏は長年に渡り,日本の OS 研究ならびにシステムソフトウェアとオペレーティング・システム研究会(OS 研究会)の活性化に大きく貢献した.河野氏は OS 研究会の風物詩となっている 5 月の沖縄開催のローカルアレンジを 1998 年より長期にわたり勤めており,多くの学生にとっての研究発表の登竜門となっている.沖縄での研究会では多くの研究発表が集まり,また発表された研究がその後に著名な国際会議・論文誌に採択されることも少なくなく,研究を発展させる場として大いに機能している研究会の1つとして定着させた.以上より,我が国のオペレーティングシステムコミュニティに対する河野氏の貢献は極めて顕著であり,CS領域功績賞に相応しい人物として強く推薦する.
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今川 隆司 君 (システムとLSIの設計技術研究会)
[推薦理由]
 今川氏はSLDM研究会運営委員会の幹事を2022年度から2023年度の2年間に渡り務められ,合計6回の運営委員会を主催し,円滑な研究会運営に大きく貢献された.また,2020年度から2022年度の3年間においてはSLDM研究会が主催するフラッグシップシンポジウムであるDAシンポジウムの実行委員幹事を務められ,DAシンポジウムの開催に大きく貢献いただいた.加えて,2022年度から2023年度において当研究会が単独開催したWIP Forumの企画・実施を務められた.上記のように今川氏は,研究会の運営やイベントの開催など,多方面にて近年のSLDM研究会に多大な貢献をされており,SLDM研究会は今川氏をCS領域功績賞の候補者としてふさわしい者として推薦いたします.
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建部 修見 君 (ハイパフォーマンスコンピューティング研究会)
[推薦理由]
 建部修見君は,並列分散システムソフトウェアの分野で優れた研究を行ってきた.特に,Gfarmファイルシステムの研究開発で著名であり,その成果は国際会議SC 2003の High Performance Bandwidth ChallengeにおいてDistributed Infrastructure Awardを受賞するなど,高性能計算分野の学会で多くの賞を受賞し,国際的にも高く評価されている.筑波大学では,研究室を主宰して学生の研究指導を行っており,CS領域における人材育成への貢献も大きい.以上の研究・開発業績だけではなく,情報処理学会ハイパフォーマンスコンピューティング研究会幹事・運営委員,情報処理学会論文誌コンピューティングシステム編集委員長,HPC Asia 2018プログラム委員長をはじめ情報処理学会主催・共催を含む多数の国際会議のプログラム委員を歴任し,CS領域の発展に顕著な貢献を行ってきた.これらの多年にわたる建部君のCS領域への貢献を評価し,同君をCS領域功績賞に推薦する.
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前田 敦司 君 (プログラミング研究会)
[推薦理由]
 前田敦司氏は,2001~2004年度および2006~2008年度にプログラミング研究会の運営委員・幹事,論文誌プログラミング編集委員・編集長を歴任され,研究会および論文誌の運営に尽力されました.委員を退任された後も,プログラミング言語およびその処理系に関する研究会発表を現在に至るまで継続的に数多くなさっており,研究会の活性化に貢献されています.また,論文誌の査読にも長期間にわたり非常に多くご協力いただいており,論文誌の質の高さの維持に貢献されています.
 加えて,プログラミング分野の教育・人材育成にも大きく貢献されております.氏らによる翻訳書「ガベージコレクション」(翔泳社,2016年)は当該分野の基盤をなす教科書として広く認知されております.また本研究会および論文誌の運営委員・幹事・編集委員として活躍する人材も輩出されています.
 このように,氏の長年にわたる研究会運営への貢献ならびにプログラミング研究分野における研究,人材育成への貢献は顕著であり,コンピュータサイエンス領域功績賞にふさわしい人物として推薦いたします.
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浅野 哲夫 君 (アルゴリズム研究会)
[推薦理由]
 浅野哲夫氏は我が国を代表する計算機科学分野の研究者であり,専門は広くアルゴリズム論一般,ならびに計算幾何学である(ACMフェロー(2001年)).浅野氏は以下に挙げるようにアルゴリズム分野において顕著な功績がある:第一に,アルゴリズム研究会設立に携わった主要なメンバーの一人である.アルゴリズム研究会は1988年に設立されたが,その設立には初代幹事の西関隆夫氏が尽力された.浅野氏は西関氏らと共に活動され,その後3代目の幹事(1992,1993年度)を務められたのち,4代目主査(1994,1995年度)を務められている.第2に,国際会議International Symposium on Algorithms and Computation (ISAAC)の立ち上げに貢献された.1990年に第1回ISAACはSIGAL International Symposium として東京で開催されたが,浅野氏はそのプログラム共同委員長を務められた他,アジアの主要な研究者の参加を促すため,台湾,韓国を訪問するなどその成功に大きく貢献され,またその後,長くISAACの運営委員メンバーを務められた.ISAACは今年35回目の開催となるが,理論計算機科学分野における主要な会議の一つと数えられており,これに対する浅野氏の貢献は非常に大きい.第3にアルゴリズム研究会の主査を務められた際,日韓アルゴリズムと計算ワークショップ(Japan-Korea Joint Workshop on Algorithms and Computation, WAAC)を主宰,立ち上げられたことである.上述ISAACの立ち上げなどを通して日韓における理論計算機科学の研究の活性化と交流の必要性から開催が始まった二国間ワークショップであるが,その後は日韓のアルゴリズム分野における交流,ならびに学生や若手研究者の国際化を促す重要なプラットフォームとして定着し,今年はソウルにて第24回が開催される予定である.
以上のように浅野氏のわが国のアルゴリズム研究の活性化,国際化に関する貢献は測り知れない.この他,多数の専門書の執筆されている他,北陸先端科学技術大学院大学では2014年から学長を務められ(2020年まで),アルゴリズム分野のみならず広く情報科学全般の研究活動の活性化に貢献された.以上の膨大な貢献・功績はCS領域功績賞にまことにふさわしいものであり,浅野哲夫氏をこれに推薦する.
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庄野 逸 君 (数理モデル化と問題解決研究会)
[推薦理由]
 庄野 逸氏は,情報処理学会の数理モデル化と問題解決研究会の活動に2007年から携わっており,以下の役職を歴任しました:
 - 研究会運営委員(2007~2010年度,2019~2023年度)
 - 研究会幹事(2013~2014年度)
 - 研究会主査(2015~2018年度)

また,同研究会と連動して発刊される情報処理学会論文誌「数理モデル化と応用」についても,以下の役職を歴任しています:
 - 編集委員(2002~2007年度,2009~2012年度,2015~2018年度)
 - 副編集長(2013~2014年度,2019~2022年度)
 - 2023年度より編集長に就任

このように,庄野氏は研究会の活性化に大いに貢献してきました.本研究会以外でも,以下の役職を務めてきました:
 - 2018年度から2年間,電子情報通信学会ニューロコンピューティング(NC)研究専門委員会委員長
 - 2020年度から2023年度まで日本神経回路学会理事

 庄野氏は,医用診断支援システムや物性材料における画像解析など,画像処理に関する研究を主軸として進め,国内における深層学習を活用した画像処理研究を先導してきました.以上のように,庄野氏の研究会運営をはじめ,多方面にわたる貢献は極めて大きいものです.そのため,CS領域功績賞受賞候補者として推薦いたします.
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渡辺 晴美 君 (組込みシステム研究会)
[推薦理由]
 渡辺晴美先生は,長年に渡り,組込みシステム分野の教育および研究開発を主導し,組込みシステム分野の発展にご尽力されました.先生は,組込みシステム技術に関する研究の活性化を目的として,2006年4月に組込みシステム研究会(SIG-EMB)結成に尽力されました.SIG-EMBは2024年3月までに65回の研究会を開催する研究会に成長しました.また,SIG-EMBの中心的な組込みシステムシンポジウム(ESS)の立ち上げにご尽力し,大会実行委員長として組込みシステム全般に関する幅広い領域の研究者・実務者の交流を促進されました.また,2017年からは,学会の国際化を目指し,Asia Pacific Conference on Robot IoT System Development and Platformの立ち上げを行い,General Chairとして2024年に至るまで7年間General Chairとして貢献されました.また,SIGEMB主査(2016年4月 - 2020年3月)として,学会におけるEMB領域の発展にご尽力されるなど,SIGEMBを通じた学会への貢献は甚大です.
また,渡辺晴美先生は,組込みシステム分野の教育を発展させるために,ロボットチャレンジプロジェクトというPBL形式の実務教育を実施し,情報処理分野の技術者の育成に多大な貢献があります.ロボットチャレンジ毎年,スプリングスクールおよびサマースクールを実施し,既に2024年度で20周年を迎えます.プログラムは意欲的に更新され,2024年には,ROSなどの最新技術要素から,デザイン志向など新しい教育をいち早く取り入れ,2017年からは国際学会と併設したグローバルPBLとして,タイの技術者育成に貢献するなど,成長を続けています.渡辺晴美先生は本プロジェクトのリーダーとして多大なる貢献があります.
 また,ESSでは文部科学省の「成長分野を支える情報技術人材の育成拠点の形成(enPiT)」と連携し,組込みシステム技術研究教育の場を提供し,実践的な教育の場の創出にご尽力,貢献されました.以上のように,渡辺晴美氏が果たした組込みシステム分野の貢献は極めて大きく,CS領域功績受賞者としてふさわしいと考え,ここに推薦いたします.
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