2018年度受賞者詳細
2018年度コンピュータサイエンス領域奨励賞受賞者詳細
●RDBとKVSを相互に活用した大規模多次元データに対する集約演算の効率化 |
渡 佑也 君 (正会員) 発表時所属:東京工業大学 情報理工学院 情報工学系 修士2年受賞時所属:日本電信電話株式会社 サービスイノベーション総合研究所 ソフトウェアイノベーションセンタ |
[推薦理由] 本論文では,RDBと分散KVSを組み合わせることにより,大規模な多次元データに対する集約演算を効率化する手法を提案している.提案手法では,実データを分散KVSで保存し,多次元インデックスをRDBで保持することで両者の利点を相補的に活用している.また,多次元空間をグリッドと呼ばれる部分集合に分割することにより,データのスキャンの量を削減している.評価実験では,既存のデータストアと比較し,クエリ処理およびデータ挿入において高いスループットを実現している.集約演算はさまざまなデータ分析において重要であり,その効率化を実現した提案手法の有用性は高い.よって,CS領域奨励賞にふさわしい論文として推薦する. |
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●機械学習による不具合組み合わせ特定への自動分類法の提案と評価 |
西浦 生成 君 (学生会員) 発表時所属:京都工芸繊維大学大学院 工芸科学研究科 情報工学専攻 博士前期課程2年受賞時所属:京都工芸繊維大学大学大学院 工芸科学研究科 設計工学専攻 博士後期課程1年 |
[推薦理由] ソフトウェアのブラックボックステストでは,組み合わせテストの各テストケースの実行結果の成否から,バグを発生させる可能性の高いパラメータ値の組み合わせを特定することが重要である.本論文では,ロジスティック回帰分析に基づく先行手法に対して,特定されたパラメータ値の組み合わせをさらに分類する3つの手段を提案し,それらの自動化を実現している.さらに,オープンソースソフトウェアのテストケースを用いた評価実験を通して,3つの分類手段が,パラメータ値の組み合わせの特定精度を向上させることを示している.今後のソフトウェアテストにおける実用が大いに期待できることより,CS領域研究賞にふさわしい論文である. |
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●情報検索に基づくBug Localizationへの不吉な臭いの深刻度の利用 |
高橋 碧 君 (学生会員) 発表時所属:東京工業大学 工学部 情報工学科 4学年受賞時所属:東京工業大学 情報理工学院 情報工学系 情報工学コース 佐伯研究室 1学年 |
[推薦理由] 大規模ソフトウェアの開発では,特定のバグを取り除くために修正すべきソースコードの箇所を限定するバグ局所化技術が重要である.これに対して,バグに関する記述とソースコード記述の類似度からバグの原因を特定するが従来から提案されている.このような情報検索に基づく手法では,それぞれのソースコードのモジュールを一様に扱い,バグの発生度合いを考慮しておらず,特定精度が低いのが問題であった.提案手法では,ソースコードの理解性をさまたげる不吉な臭いに着目し,バグの混入のしやすさという観点から,従来のバグ局所化手法の拡張に成功している.オープンソースソフトウェアを用いた評価実験を通して,提案手法の実用性の高さが示されている.着眼点の新しさと実用性の高さより,CS領域研究賞にふさわしい論文である. |
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●高次数イジングネットワークの時分割処理方式の検討 |
山本 佳生 君 (学生会員) 発表時所属:北海道大学 情報科学研究科 情報エレクトロニクス専攻 集積アーキテクチャ研究室 博士課程1年受賞時所属:北海道大学 情報科学研究科 情報エレクトロニクス専攻 集積アーキテクチャ研究室 博士課程2年 |
[推薦理由] 組合せ最適化問題は,イジングモデルの基底状態探索に置き換えることが可能であることが知られている.全展開型イジング計算機は,スピン間接続が疎であるがゆえ,高次数のグラフで表現される組合せ最適化問題を計算機にそのままマッピングすることが不可能である.そのため得られる解精度が低下してしまうという問題があった.本研究は,時分割処理機構を用いて,グラフを空間に全展開するのではなく,時間方向に展開することで,仮想的にスピン間接続を増やし,高次数グラフを元のネットワークを保持したまま処理することを実現するものである.本手法は,極めて有用な手法であり,CS領域奨励賞を授与するにふさわしいと考える. |
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●FPGA NICを用いたブロックチェーン向けデータベースのキャッシング |
榊原 優真 君 (学生会員) 発表時所属:慶應義塾大学大学院 理工学研究科 修士1年受賞時所属:慶應義塾大学大学院 理工学研究科 修士2年 |
[推薦理由] 榊原君は,暗号通貨の基盤技術でもあるブロックチェーンの取引情報の検索を高速化するために,10Gbit Ethernet ポートを有するFPGAボード上に検索結果の一部をキャッシュする方式を提案している.ブロックチェーンの計算機アクセラレーションに関する既存事例のほとんどはその採掘に関するものであり,取引情報の検索高速化については研究されていない.しかし,今後,スマートコントラクトが普及し,大量のIoTデバイスがブロックチェーンに参加するようになると取引履歴の検索や検証がアプリケーションの性能ボトルネックとなり得るので,同君の研究は将来を見据えた先駆的な研究であると言える. |
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●OSクラッシュからのプロセスコンテキスト保護手法 |
寺田 献 君 (学生会員) 発表時所属:東京農工大学大学院 工学府 電子情報工学専攻 2年受賞時所属:東京農工大学大学院 工学府 電子情報工学専攻 |
[推薦理由] 本論文では,仮想マシンモニタを用いてOSの障害からアプリケーションの実行状態を保護することにより,可用性を向上させる手法を提案している.従来,OSの障害からアプリケーションの状態を復元したり保護したりする手法が提案されてきたが,それらを両立することはできなかった.提案手法では,保護対象のアプリケーション専用のメモリ仮想化を行い,アクセス制限をかけることでメモリ保護を実現する.また,アプリケーションが発行したシステムコールのログを記録することで,障害復旧時にアプリケーションの状態を再現する.提案手法は最小で数%のオーバヘッドで保護を提供することができている.よって,CS領域奨励賞にふさわしい論文として推薦する. |
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●性能カウンタを用いた近似実行の高速なエミュレーション |
穐山 空道 君 (正会員) 発表時所属:国立研究開発法人産業技術総合研究所 人工知能研究センター受賞時所属:東京大学大学院 情報理工学系研究科 創造情報学専攻 |
[推薦理由] データセンタ省電力化のため,計算精度を落とす代わりに消費電力を削減する近似実行が着目され,メモリサブシステムを省電力化する研究が盛んである.しかし,既存研究の実アプリケーションに対する近似実行の適用可能性調査の研究では,メモリトレースツールやハードウェアエミュレータが利用され,実機の数百倍から千倍程度低速である.本研究では,コモデティなCPUのハードウェア機能を利用することで,メモリへの近似実行がアプリケーションに与える影響を高速に見積もる手法を提案している.評価の結果,提案機構ではアプリケーションへの影響を実機の数倍程度の時間で見積もれることを確認しており,有効性を示している.よって,CS領域奨励賞にふさわしい論文として推薦する. |
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●PMOSパストランジスタを用いた非多重化耐ソフトエラーFFの提案及び評価 |
山田 晃大 君 (学生会員) 発表時所属:京都工芸繊維大学大学院 工芸科学研究科 電子システム工学専攻受賞時所属:京都工芸繊維大学大学院 工芸科学研究科 電子システム工学専攻 |
[推薦理由] 集積回路素子の微細化に伴いソフトエラーによる集積回路の信頼性低下が問題となっている.本論文では,FDSOIプロセスにおけるPMOSパストランジスタを用いた非多重化耐ソフトエラーFF (Flip-Flop)を2種類提案している.提案FFは,既存の非多重化耐ソフトエラーFFであるStacked FFに比べて遅延時間を約20%,消費電力を約50%削減した.提案FFを搭載したチップを試作し,中性子線によりソフトエラー耐性を評価した結果,中性子線起因のソフトエラー率をどちらもStacked FFと比べて1/7以下に低減できることを示した.本論文は,非多重化耐ソフトエラーFFの有効性を示す価値の高い論文であることから,CS領域奨励賞受賞論文として強く推薦する. |
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●双安定リング回路の収束時間により瞬時値応答を得る発振回路PUF |
田中 悠貴 君 (学生会員) 発表時所属:京都大学大学院 情報学研究科 通信情報システム専攻受賞時所属:京都大学 大学院情報学研究科 通信情報システム専攻 |
[推薦理由] 半導体の製造ばらつきを用いてICの個体認証を行うPhysical Unclonable Function (PUF)技術が注目されている.既存のPUFの多くはSupport Vector Machine(SVM)等の機械学習によりレスポンスの予測が容易である問題があった.本論文では,双安定リング回路の収束時間の非線形性を利用して,双安定リング回路の収束時における発振回路の瞬時値をレスポンスとして用いるPUFを提案している.SPICEシミュレーションを用いた提案回路の解析により,SVMによる予測割合が0.5程度となりレスポンスの予測が困難であることを示した.本論文は,機械学習攻撃に強いPUF技術に大きな指針を与える価値の高い論文であることから,CS領域奨励賞受賞論文として強く推薦するものである. |
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●オーバープロビジョニング環境での大規模HPCシステムの電力と性能評価 |
坂本 龍一 君 (正会員) 発表時所属:東京大学大学院 情報理工学系研究科受賞時所属:東京大学大学院 情報理工学系研究科 システム情報学専攻 システム第八研究室 |
[推薦理由] 大規模なHPCシステムにおいては,ジョブ特性やシステムの運用状況等に合わせて電力管理,計算ノード資源管理を行うオーバープロビジョニング環境の構築が重要となってきている.本研究では,オーバープロビジョニング向けの電力制約を考慮したリソースマネージャの設計を行い,実際のHPCシステムにおいて電力と性能の評価を行ったものである.現時点でも電力制約が大きいHPCシステムにおいて,最適なシステム運用をするためにも計算リソースを管理することは重要であり,本研究の成果はハイパフォーマンスコンピューティング分野において有用な知見である.よって,コンピュータサイエンス(CS)領域奨励賞に推薦するものである. |
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●ooc_cuDNN: GPU計算機のメモリ階層を利用した大規模深層学習ライブラリの開発 |
伊藤 祐貴 君 (学生会員) 発表時所属:東京工業大学 情報理工学院 数理・計算科学系 遠藤研究室 修士1年受賞時所属:東京工業大学 情報理工学院 数理・計算科学系 遠藤研究室 修士2年 |
[推薦理由] 畳み込みニューラルネットワーク(CNN)による深層学習の計算では,GPUを用いることにより高速に実行できることが知られているが,ネットワークや画像サイズの大きいCNNについてはGPUのメモリ容量が小さいため高速計算が困難であった.本研究では,GPUメモリ容量を超えるCNNの計算のために,out of core cuDNNを設計,実装し,その性能を評価したものである.多少,計算時間のオーバヘッドはあるものの,60GB以上のメモリ容量を必要とするCNNを,16GBのGPUで計算できることを確認した.今後,人工知能の研究においても必要であろう大規模データを扱う深層学習への期待が持てるハイパフォーマンスコンピューティング分野において有用な知見である.よって,コンピュータサイエンス(CS)領域奨励賞に推薦するものである. |
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●深層学習フレームワークにおけるCPUとGPUの性能解析および最適化 |
樋口 兼一 君 (学生会員) 発表時所属:東京大学 工学部 電子情報工学科 4学年受賞時所属:東京大学大学院 情報理工学系研究科電子情報学専攻 1学年 |
[推薦理由] 深層学習フレームワークの大半ではGPUに比べてCPU用の最適化は十分に行われているとはいえず,より正確な性能比較を行うためにはCPUに合わせた最適化が必要とされる.本研究では,Chainerを対象に,全体の実行時間に最も影響を与える関数についてCPUとGPU用の実装のプロファイリングを行い,CPUのみの環境で使用される関数の一部が実行時間を消費することを特定し,その部分に対してCPU用の最適化を行っている.そして,その上でCPUとGPU間の性能比較を行った結果,GPUと比べても十分に高速になる部分やCPUでは高速化が難しい部分が存在することが報告された.深層学習フレームワークにおけるGPUとCPUのもつ性能差についてより深く踏み込んだ比較結果を与えている点を評価し,コンピュータ科学領域奨励賞にふさわしいものとして推薦する. |
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●多者間通信プロトコルに対するタイムアウトの導入 |
松原 信忠 君 (正会員) 発表時所属:名古屋大学大学院 情報科学研究科 情報システム学専攻 博士前期課程2年受賞時所属:株式会社ミクシィ モンスト事業本部 開発室 |
[推薦理由] 多者間セッション型は,複数プロセス間の通信プロトコルを記述するための型システムであり,各プロセスが自身に割り当てられた型に従って送受信を行えばデッドロック等の不整合が生じないことを静的型検査によって保証できる.本発表では,多者間セッション型に対し信頼性の高い分散システムの記述にとって重要なタイムアウト機能の追加を行っている.従来の時間付きセッション型では,タイムアウトの有無に従い処理が分岐する際,各分岐で異なる通信パターンを用いることができないという厳しい制限があったが,提案手法ではそのような通信も記述可能であり柔軟性が高い.また,タイムアウト機能を用いる場合であっても整合性を保証する型システムを構築し,そのために各プロセスが満たすべき通信制約を明らかにしている点でも価値が高い.よって,CS領域奨励賞にふさわしいものとして推薦する. |
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●The Coloring Reconfiguration Problem on Specific Graph Classes |
畑中 達彦 君 (学生会員) 発表時所属:東北大学大学院 情報科学研究科 博士後期課程2年受賞時所属:東北大学 大学院情報科学研究科 システム情報科学専攻 博士後期課程3年 |
[推薦理由] 彩色遷移問題は,グラフの点彩色が形成する解空間の到達可能性を判定する問題であり,理論計算機科学の分野で盛んに研究されている.本研究では,彩色遷移問題の計算複雑性を入力グラフの構造に基づいて解析している.とりわけ,弦グラフに対して彩色遷移問題がPSPACE完全であることを証明しているが,この結果は2016年にBonsmaとPaulusmaが提唱した未解決問題を解決するものであり,高く評価できる.一方で,split graphやtrivially perfect graphと呼ばれるグラフに対しては,多項式時間アルゴリズムを開発している.これらのグラフは,弦グラフの部分クラスを形成しており,したがって本研究の成果はグラフクラスの観点から計算複雑性の対比を与えることに成功している.以上の理由から,CS領域奨励賞にふさわしいものとして推薦する. |
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●単目的最適化のための探索空間低次元化に基づく新たなアプローチの提案 |
開発 拓也 君 (学生会員) 発表時所属:室蘭工業大学大学院 情報電子工学系専攻受賞時所属:室蘭工業大学大学院 情報電子工学系専攻2学年 |
[推薦理由] 本研究論文は,単目的最適化のために探索空間を低次元化するというアプローチに基づいてなされた研究である.探索問題では,変数が多数存在した場合,解空間が指数オーダーで増加するため,探索が困難になる.これに対するアプローチとして本研究では,低次元化に対して t-SNE と呼ばれる尺度を用いた次元圧縮をおこなっている.本研究では,この低次元化手法とサンプリング手法とを組み合わせた方法を提案しており,既存の手法と比べて優れた性質を持つことが示されている.このような組み合わせ手法は,数理モデル化の問題解決に非常に有意義であり,他のMPS研究会会員にとって大変刺激になると考えられる.また他の領域の研究者がMPS研究会自体に興味を持つ契機になると考えられる.以上の理由から CS 領域研究奨励賞の受賞候補として推薦するものである. |
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●スケーラブルなROS環境に向けた資源管理機構 |
福富 大輔 君 (学生会員) 発表時所属:立命館大学大学院 情報理工学研究科受賞時所属:立命館大学大学院 情報理工学研究科 情報理工学専攻 博士前期課程 2回生 |
[推薦理由] 本論文は,近年ロボット開発のミドルウェアとしてデファクトスタンダードとなっているRobotOperating System (ROS) に資源管理機構が無いことに着目し,Master-Slave方式の資源管理機構を提案した.ROSでは分散環境に対応しており,大規模なデータを処理する場合,資源を管理し,複数の\理をROS分散環境で効率よく円滑に稼働させる必要がある.提案手法では,各ホストマシンの資源の利用を把握した処理の割り当てとともに,適応的に負荷分散を行うために,ROSの通信方式を応用したバックアップ機構を構築している.評価では,10台のホストマシンで構成されるROS分散環境上で,スケーラブルに処理を実行することが可能なことを示した.本成果は,複数台のロボットシステムや,自動運転アプリケーションといった大規模データ処理の分散化に対し有用である.以上より本論文をCS領域奨励賞に推薦する. |
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●mROS:組込みデバイス向けROSノード軽量実行環境 |
森 智也 君 (正会員) 発表時所属:京都大学大学院 情報学研究科 修士課程受賞時所属:日本シノプシス合同会社 Solution Group Japan IP R&D Center |
[推薦理由] 本論文の著者らは,ロボットソフトウェアの組込みデバイス向け軽量実行環境であるmROSの研究開発に取り組んでいる.mROSは,ROS(Robot Operating System)を用いた分散ロボットシステムにおいて,Linuxの搭載できない小規模な組込みデバイスに対して,ホストPC上のROSマスタへのノード登録および他のROSノードへの出版購読通信の機能を提供する.本論文では,同一の組込みデバイス内に複数のROSノードが配置されるシステムについて,そのノード間通信を高速化する手法を提案した.具体的には,mROS内のTOPPERSカーネルによって管理されるタスク間で共有メモリを介してデータ通信を実現できるようにした.これにより,デバイス内タスク間通信は,TCPソケットを介した外部デバイス上のROSノードに対する通信より約5倍の高速化を達成した.加えて本論文では,組込みデバイスに取り付けたカメラモジュールから取得した画像から特徴点抽出を行う分散ロボットシステムの開発事例を示した.これにより,mROSによって既存のROSパッケージを組込みデバイスに移植できることの有用性を立証した.mROSの技術は,ロボットシステムの省電力化およびリアルタイム性の向上に貢献することが期待され,実用性についても大きな意義がある.よって,CS領域奨励賞にふさわしい論文として推薦する. |
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