「形状記憶合金糸を用いた触覚ディスプレイと微小振動の発生確率密度制御による触覚感覚の呈示」

平成21年度論文賞受賞者の紹介

「形状記憶合金糸を用いた触覚ディスプレイと微小振動の発生確率密度制御による触覚感覚の呈示」[情報処理学会論文誌 Vol.49, No.12, pp.3890-3898]

[論文概要]

 本論文では、形状記憶合金糸を微小振動アクチュエータとして利用した新しい触覚ディスプレイを提案し、各アクチュエータを駆動するパルス信号を、その発生確率密度によって制御して触覚感覚を呈示する手法について述べた。本振動アクチュエータは、パルス信号を与えることによってその周期に同期して微小振動を発生するが、ランダム発生パルスによって各アクチュエータを駆動することにより、様々な触覚感覚を呈示できることを示した。さらに、パルス信号の発生確率密度を時間的に変化させることにより、面のテクスチャや、物体をなぞった感覚を生成できることを明らかにした。



[推薦理由]

 本論文は、平面上に配置された小型の糸状の形状記憶合金素子を電流で駆動することによって触覚提示を行うデバイスについて述べられたものである。本論文で用いている糸状の形状記憶合金素子は、電流を流すと人体に影響のない微小な発熱によって伸縮し、これを触覚の提示に用いている。またその駆動電流を、非周期的な確率的な密度波とし、また平面状に配置された各形状記憶合金素子の駆動電流密度を動的に変化させることで、滑らかな触覚の提示を実現している。従来にも電気刺激や物理的に動くアクチュエータを用いる触覚ディスプレイに関する研究は多くあるが、本論文で述べられている手法は、素子が小型・低消費電力であり、また応答速度も速いため、従来の触覚ディスプレイよりも幅広い応用範囲が期待される。以上の理由により本論文を論文賞に推薦する。

水上 陽介 君

  1982年生。2006年香川大学工学部知能機械システム工学科卒業。2008年同工学研究科知能機械システム工学専博士前期課程修了。同年4月より本田技研工業株式会社に勤務。同10月より株式会社本田技術研究所に在籍。在学中は、ヒューマンインタフェース、特に触覚呈示デバイスの研究に従事。電子情報通信学会ヒューマンコミュニケーション賞、ヒューマンインタフェース学会研究会賞受賞。

澤田 秀之 君

  1967年生。1990年早稲田大学理工学部応用物理学科卒業。1992年同大学院博士前期課程修了。1998年同大学院博士後期課程修了。日本学術振興会特別研究員、早稲田大学助手を経て、現在、香川大学工学部教授。ロボティクス、音響信号処理、ヒューマンインタフェースの研究に従事。工学博士。電子情報通信学会ヒューマンコミュニケーション賞、ヒューマンインタフェース学会研究会賞、IEEE/RSJ IROS Hyper Human Tech Award 他、多数受賞。