「送信者に認証機能を付加したブロードキャスト暗号とその応用」[論文誌Vol.47, No.11, pp. 2992-3004 (2006)]

平成19年度論文賞受賞者の紹介

「送信者に認証機能を付加したブロードキャスト暗号とその応用」[論文誌Vol.47, No.11, pp. 2992-3004 (2006)]

[論文概要]
 ブロードキャスト暗号とは,多数のユーザが存在する中で,送信者が選択したユーザのみに対し,ブロードキャストチャネルを通して安全かつ効率的にデータを配布する技術であり,有料放送など著作物の配信に有効である.本稿では,送信者が自身の秘密鍵を用いて暗号文を生成することにより,受信者が送信者の本人認証とメッセージ認証を行うことができる方式を提案する.さらに,提案方式を応用し,1-out-of-n署名と検証者指定署名の特徴を併せた署名方式が構築できることを示す.両方式は,いずれも暗号文や署名のサイズがnに依存せず固定長となり,チャネルの帯域が制限された環境に適している.

[推薦理由]
 音楽、画像、映像などのディジタルコンテンツの普及に、衛星放送などの放送型通信サービスが多大なる影響を与えている。この放送型通信サービス、特に、有料の放送型通信サービスにおいて、適切なコンテンツ配信を実現するために、料金を支払った利用者へのアクセス権限の動的かつ効率的な付与方法の研究開発が盛んである。しかし、既存研究のほとんどは、この権限付与を実現する方式の議論に留まっており、安全なコンテンツ配信に欠かせないコンテンツ送信者の特定方法に関する議論が全くといってよいほどなかった。これに対して、著者らは、この送信者認証の必要性に着目し、認証機能の付与された放送型の暗号方式の効率的な構成方法を示している。加えて、提案方式を応用した匿名署名方式も構成している。このように、本論文は、今後の放送型通信サービスの健全な発展に欠かすことのできない重要な題材を取り上げており、今後の本分野の研究開発に大きく貢献するものといえる。

金沢 史明 君  2003年東京理科大学理学部応用数学科卒業.2005年北陸先端科学技術大学院大学情報科学研究科博士前期課程修了.2008年筑波大学大学院システム情報工学研究科博士後期課程修了.博士(工学).同年特許庁入庁.暗号とその関連技術に興味を持つ.情報処理学会平成18年度山下記念研究賞受賞.情報処理学会,電子情報通信学会,各会員.

岡本 健 君  2002年北陸先端科学技術大学院大学博士後期課程修了.博士(情報科学).同年東京電機大学理工学部情報科学科助手,2003年筑波大学大学院システム情報工学研究科講師,2008年筑波技術大学保健科学部准教授,現在に至る.情報セキュリティ,暗号とその応用に関する研究に従事.著書に『Linuxハンドブック』(オライリージャパン:共訳)等.

猪俣 敦夫 君  2002年北陸先端科学技術大学院大学博士後期課程修了.博士(情報科学).同年日本テレコム(株)情報通信研究所, 2004年(独)科学技術振興機構研究員,2008年奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科特任准教授,現在に至る.光伝送制御技術,情報セキュリティに関する研究に従事.情報処理学会,電子情報通信学会,教育システム情報学会, 情報ネットワーク法学会各会員.

岡本 栄司 君  1973年東工大・工・電子卒.1978年同大学院博士課程了.工博.同年日本電気中央研究所入社.その後, 北陸先端大, 東邦大をへて2002年より筑波大教授.情報セキュリティの教育・研究に従事.1990年電子情報通信学会論文賞,1993年本会ベストオーサ賞受賞.著書「暗号理論入門」(共立出版),「電子マネー」(岩波書店)など.