「高いヒープ使用率の下で高速なインクリメンタルGC」[論文誌Vol.47, No.SIG2(PRO28), pp. 74-83 (2006)]

平成18年度論文賞受賞者の紹介

「高いヒープ使用率の下で高速なインクリメンタルGC」[論文誌Vol.47, No.SIG2(PRO28), pp. 74-83 (2006)]

[論文概要]
 ガーベジコレクション(GC)の性能は一般にスループットと停止時間で表される。本論文では停止時間が短く、ヒープ使用率の増加に伴うスループットの低下を抑えるGC手法について述べる。この目的のためにincremental mark sweep(IMS)とreference counting(RC)を組み合わせた上で、IMS処理量の動的な制御方法を提案する。IMSとRCを単純に組み合わせただけでは必要以上に頻繁にMSサイクルを行ってしまうため、IMSのマーク量を動的に制御することが重要になる。

[推薦理由]
 本論文は、インクリメンタルGCにおいて、ヒープ使用率の増加に伴うスループットの低下を抑える手法を提案している。提案手法は参照カウント(RC)方式をベースに、循環参照オブジェクトの回収を含むバックアップGCとして Incremental Mark & Sweep(IMS)を採用している。その特徴は、IMS部のマーク量を動的に制御することでスイープの開始タイミングを適切にスケジュールし、IMSのサイクル数を減らすことにあり、ヒープ使用量が高い場合のコスト上昇を抑えている。RCとIMSを組みあわせたハイブリッドGCにおいて、IMSのマーク量をマーク量とヒープの空きに従って動的に制御する方式に新規性があるのに加え、モデルに基づくコストの見積りと、JMTkを用いた実装による評価も行っており、プログラミング言語処理系研究への貢献は大きい。よって、本論文を論文賞に推薦する。

白井 達也 君 1983年生。2007年東京大学大学院情報理工学系研究科電子情報学専攻修士課程修了。同年株式会社リコー入社。高速計算の基盤技術に興味を持つ。

遠藤 敏夫 君 1974年生。2001年東京大学大学院理学系研究科情報科学専攻博士課程修了。博士(理学)。科学技術振興機構研究員、東京大学大学院情報理工学系研究科特任助手等を経て、2006年より東京工業大学学術国際情報センター特任講師。主に分散・並列処理の研究に従事。日本ソフトウェア科学会、ACM、IEEE-CS各会員。

田浦 健次朗 君 1969年生。1997年東京大学大学院理学博士(情報科学専攻)。1996年より東京大学大学院理学系研究科情報科学専攻助手。2001年より東京大学大学院情報理工学系研究科電子情報学専攻講師。2002年より同助教授。2007年より同准教授。日本ソフトウェア科学会、ACM、IEEE-CS各会員。

近山 隆 君 1953年生。1977年東京大学工学部計数工学科卒業。1982年東京大学大学院情報工学専門課程修了。工学博士。同年よりICOTにおいて第五世代コンピュータプロジェクトに参加。1995年より東京大学に移り、現在同新領域創成科学研究科基盤情報学専攻教授。日本ソフトウェア科学会、人工知能学会、ACM各会員。