「チェアサイドで使用可能な発語評価のための音声認識の開発」 [論文誌Vol.46, No.5, pp. 1165-1175 (2005)]
平成17年度論文賞受賞者の紹介
「チェアサイドで使用可能な発語評価のための音声認識の開発」 [論文誌Vol.46, No.5, pp. 1165-1175 (2005)]
[論文概要]
本論文は歯科において義歯装着等の補綴処置を行う際に、発語機能回復度を客観評価する手法の提案である。従来手法では専用の検査室で特殊な機器および複数の評価者によるため時間と労力を伴い、即座に結果を患者に呈示できない。しかも、発語音声を直接に評価するものではない。提案手法では、一般の音声認識ソフトでは得られないフレーム毎の音素等の情報(音声セグメントラベル)によって時間方向の変化を観察でき、適正/不適正ラベルの比による定量的評価を確立した。また、ノートPC上の発語評価ソフトを開発し、大学・民間病院だけでなく一般開業医においてもチェアサイドでの評価を可能にした。
[推薦理由]
義歯装着によってどれだけ発語が改善されたかを評価するための従来の方法は専用の検査室や複数の評価者などを必要とすることから、これまで診療現場では医師の主観的・定性的判断にたよっていた。本論文では、改善度合いをより正確かつ定量的に行なうために、音声認識技術を用いた手法を開発している。従来の音声認識研究とは目的が異なるため、既存技術の単なる応用にとどまらず、歯科医師との緊密な連携の下、実用的なシステムの構築まで行なっており、有用性が高い。また「産」の音声認識技術者による目的に適した新手法の提案と、「学」の歯科医師によるその手法の特性を考慮した発語評価法の考案による、産学協同の成功例報告としても高く評価できる。よって本論文を論文賞に推薦する。
松浦 博 君 1979年早稲田大学理工学部電気工学科卒業.1981年同大大学院理工学研究科電気工学専攻博士前期課程修了.同年東京芝浦電気(株)入社.現在(株) 東芝研究開発センター所属.不特定話者大語彙音声認識の実用化,音声技術の活用,マルチモーダルユーザインタフェースの研究に興味を持つ.博士(工学). 電子情報通信学会,日本音響学会,情報処理学会各会員.
桃崎 浩平 君 1991年東京工業大学工学部電子物理工学科卒業.1993年同大大学院総合理工学研究科修士課程修了.同年(株)東芝入社. 現在同社研究開発センター所属.音声認識装置,マルチメディア処理技術の研究開発に従事.日本音響学会,情報処理学会各会員.
正井 康之 君 1984年筑波大学第三学群情報学類卒業.1986年同大大学院工学研究科博士前期課程修了.同年(株)東芝入社.現在同社セミコンダクター社所属.音声認識・合成技術の開発に従事
秀島 雅之 君 1984年東京医科歯科大学歯学部卒.1989年同大大学院歯学研究科修了(歯学博士).同年同大歯学部附属病院顎口腔機能治療部助手.1999年同大大学院摂食機能構築学分野(部分床義歯学)講師.咀嚼時の下顎運動・口腔感覚の研究,歯科実習シミュレーションシステムの開発に従事.2001年より音声認識を用いたチェアサイド発語機能評価システムの開発.日本補綴歯科学会,日本顎口腔機能学会,日本顎顔面補綴学会各会員.
犬飼 周佑 君 2002年東京医科歯科大学歯学部歯学科卒業.同年同大大学院医歯学総合研究科摂食機能構築学分野入学.2006年同大歯学部附属病院回復系診療科医員.2002年より音声認識を用いたチェアサイド発語機能評価システムの研究に従事.
佐藤 雅之 君 1996年東京医科歯科大学大学院歯学研究科博士課程修了.2002年同大大学院医歯学総合研究科助手.部分床義歯装着者の構音に関する研究に従事.
安藤 智宏 君 2003年東京医科歯科大学歯学部卒業.現在,同大大学院医歯学総合研究科摂食機能構築学分野に在学中.歯科補綴による音声認識に関する研究に従事.
大山 喬史 君 1966年東京医科歯科大学歯学部卒.同年同大歯科第一補綴学教室助手.1970年鶴見大学歯学部補綴学教室講師.1979年東京医科歯科大学顎口腔機能治療部教授.1993年同大歯学部附属病院長.2000年同大摂食機能構築学分野教授.2003年同大副学長.2005年同大名誉教授,理事,副学長.部分床義歯学,顎顔面補綴学,スポーツ歯学,審美歯科学に従事.歯ざわり,歯応えと味覚の関係,義歯床の形態と発音の研究に従事.歯学博士.日本補綴歯科学会名誉会員.