「排他的なメソッドの並行な呼び出しを融合する機構を持つ言語」(Vol.42,No.SIG2)

平成13年度論文賞受賞者の紹介

「排他的なメソッドの並行な呼び出しを融合する機構を持つ言語」(Vol.42,No.SIG2)

[論文概要]
 並行拡張されたオブジェクト指向言語に,排他的なメソッドの複数の並行な呼び出しを融合する機構を導入する方法を示す.通常それらの呼び出しは逐次化される.本機構は,逐次化された結果として実行待ち状態にある複数の排他的なメソッドの呼び出しを融合する.具体的には,それらの呼び出しを単一の呼び出し等のより高速な処理に動的に切り替える.例えば,カウンタオブジェクトに対する,1を加算するメソッドの呼び出しと,2を加算するメソッドの呼び出しを融合して,3を加算するメソッドのみを呼び出す.我々は本機構を持つ言語を実装し,Sun Enterprise 10000上で本機構が与える性能向上を測定した.

[推薦理由]
 並行拡張されたオブジェクト指向言語においては、オブジェクトの整合性を保つために メソッド間の排他的実行は不可欠であるが、しばしば性能上のボトルネックとなる。本論文は、これを解消すべく、排他的に実行される複数のメソッド呼び出しを融合する機構を提案するものである。これによりロックの獲得頻度が下がり、性能向上が期待されるのであるが、本論文は、実際に融合機構を実装しそれを確認しており、優れて実用性の高い内容となっている。さらに、具体的な融合場面を複数列挙している点、融合規則を各メソッドとは別に記述する点、 その実装としてキュー上に格納された呼び出しのインスタンスのマッチングに基づく点等、並行言語の設計や実装の観点から非常に示唆に富んだものとなっている。

大山 恵弘君  1973年生.2001年東京大学大学院にて博士(理学)取得.現在,科学技術振興事業団さきがけ研究21研究員として筑波大学で計算機システムのセキュリティの研究に従事.興味はセキュリティ,システムソフトウェア,プログラミング言語,並列分散処理.

田浦 健次朗君  1969年生.1997年,東京大学大学院理学博士(情報科学専攻).1996年より東京大学大学院理学系研究科情報科学専攻助手.2001年より東京大学大学院情報理工学系研究科電子情報学専攻講師.2002年より同専攻助教授.並列・分散処理,プログラム言語に興味を持つ.ACM, IEEE, 情報処理学会,ソフトウェア科学会,会員.

米澤 明憲君  1947年生.1977年 Ph. D. in Computer Science (MIT).1989年より東京大学情報理工学系コンピュータ科学専攻教授.並列・分散・協調ソフトウェアアーキテクチャなどに興味を持つ.ドイツGMD科学顧問,ACM TOPLAS副編集長,IEEE Parallel & Distributed TechnologyおよびComputer編集委員などを歴任,元日本ソフトウェア科学会理事長,総合規制改革会議委員,米国学会ACMの Fellow.