田中 穂積  君

2005年度(平成17年度)功績賞受賞者の紹介

田中 穂積  君 (たなか ほずみ)

本会正会員 田中穂積君は,永年にわたり一貫して知識情報処理分野の研究に携わり,数多くの優れた業績をあげてこられました.特に日本語の構文解析・意味解析の分野では草分け的存在で,多くの先駆的研究をされています.たとえば,論理プログラムと自然言語処理を融合させる新しい手法を発展させるとともに,第5世代コンピュータ計画にも多大な貢献をされました.最近では,GLRと呼ばれる構文解析技術に,わかち書きをおこなうための形態素解析技術を融合させて,形態素解析と構文解析を同時並行しておこなう新しいアルゴリズムを提案するとともに,このアルゴリズムを組み込んだ自然言語処理用ツール(MSLRシステム)を開発し,公開されています.この研究は,さらに確率的要素を導入したPGLRモデルに発展しています.これらの第1級の研究を通じて,優れた教育をおこない,知識情報処理分野において優秀な人材を送り出してこられました.

  また,同君は科学研究費学術創成研究「言語理解と行動制御」研究代表者として,計算機科学のみならず,哲学,言語学,認知科学,ロボティクスなど,他分野の研究者も参加したプロジェクトをとりまとめ,言語と行動の関係を探究する新しい学際的研究分野を開拓されました.さらに,早くから言語資源の重要性を認識され,欧米に比べ,日本には言語資源を収集管理し流通させる機構が皆無であったことから,2004年末に特定非営利活動法人「言語資源協会」を設立され,現在,その理事長として自然言語処理研究のインフラ整備に尽力されています.

  本会においては,各種委員会委員,主査,理事等を歴任され,また人工知能学会,言語処理学会の会長などを務められるなど,日本の知識情報処理分野において指導的な貢献をされました.また,国際的にはアジア太平洋機械翻訳協会会長,国際機械翻訳協会会長などを歴任され,現在もInternational Committee of Computational Linguisticsのメンバーとして活躍されています.

 教育の分野では,今や大学や大学院の教科書・参考書として広く採用されている「自然言語解析の基礎」(田中穂積著,産業図書,1989),「自然言語処理—基礎と応用」(田中穂積監修,電子情報通信学会,1999)を出版され,わが国の情報処理基礎教育に対して多大の貢献をされています.

  産業振興に関しては,1983年より始まった通商産業省の「第5世代コンピュータ計画」に計画立案の段階から参加し,知的インターフェース分野の研究を指導されてきました.また,1985年から始まった通商産業省のODA事業「近隣諸国間の機械翻訳システムに関する研究協力」では,産業界をとりまとめ,多言語機械翻訳プロジェクトの技術委員長としてわが国の情報産業に貢献されています.

  以上のように同君は,知識情報処理分野の研究の進展,教育,産業振興において大いに貢献しており,その功績はまことに顕著であります.