「新しいタスクモデルによるメニーコア環境に適したMPIノード内通信の実装」

2016年度論文賞受賞者の紹介

新しいタスクモデルによるメニーコア環境に適したMPIノード内通信の実装

[情報処理学会論文誌 コンピューティングシステム Vol.8 No.2, pp.36-54]
[論文概要]

 HPCシステムを構成するノード1台あたりのコア数は飛躍的に増加してきている.一方,コアあたりのメモリ量は減少する傾向にある.PVASは,このようなメニーコア環境において,効率的に並列処理を行うための新たなタスクモデルである.PVASは,並列処理を行うプロセスを同一アドレス空間で動作させ,ノード内通信からアドレス空間をまたいでデータ転送を行うためのコストを排除する.本研究では,PVASをMPIのノード内通信に適用し,評価した.その結果,MPIアプリケーションの実行性能を最大で18%向上し,最大で約264MB,通信によるメモリ消費量を削減することができた.

[推薦理由]

 1プロセッサあたりのコア数が増加し相対的に1コアあたりのメモリ量が減少する傾向にある今日において、高い性能と少ないメモリ使用量を両立可能な並列処理は非常に重要である。著者らは以前の研究にてノード内のプロセス群が同一のアドレス空間で動作することにより高性能と省メモリ消費量を達成するPartitioned Virtual Address Space (PVAS) モデルを提案しており、本論文ではそれを用いて高速でメモリ消費量の少ないMPIノード内通信を実現した。本研究による成果は今後の大規模HPCシステムにおいて有効に活用されることが期待されるものである。さらに本論文は提案内容の詳細や有効性をわかりやすく解説しているのみならず、既存手法との関連性や比較についても十分に述べており、優れた論文である。以上の理由により本論文は情報処理学会論文誌の論文賞に相応しいと判断し、推薦する。

島田 明男 君

 2006年慶應義塾大学理工学部情報工学科卒業.2008年同大大学院理工学研究科修士課程修了.同年株式会社日立製作所入社.2012年理化学研究所計算科学研究機構出向.2015年より日立製作所に復帰.同年慶應義塾大学理工学研究科博士課程入学.システムソフトウェア,ストレージ,並列システム等に興味を持つ.

堀 敦史 君

 1981年早稲田大学理工学研究科修士課程修了.同年三菱総合研究所入社.1992年技術研究組合新情報処理開発機構に出向.1999年東京大学より博士学位取得.2001年スイミーソフトウェア設立.2004年Allinea Software社移籍.2008年東京大学情報基盤センター特任教授.2010年より理化学研究所計算科学研究機構.上級研究員.

石川 裕 君

 1987年慶應義塾大学大学院工学研究科博士課程修了.工学博士.同年電子技術総合研究所入所.1993年技術研究組合新情報処理開発機構出向.2002年より東京大学大学院情報理工学系研究科コンピュータ科学専攻.教授.2010年より同大情報基盤センターセンター長兼務.2014年より理化学研究所計算科学研究機構.プロジェクトリーダ.チームリーダ.