「共有資源の競合を考慮したチップマルチプロセッサ向け低消費電力化手法」
2012年度論文賞受賞者の紹介
共有資源の競合を考慮したチップマルチプロセッサ向け低消費電力化手法
[情報処理学会論文誌 数理 コンピューティングシステム Vol.4 No.2 pp.40-58]
[論文概要]
近年,複数のコアを1チップに搭載するチップマルチプロセッサ(CMP)が主流となっている.CMPでは複数のコアが下位のメモリ階層を共有し限られた資源を有効に活用出来る一方,共有資源へのアクセス競合により性能が低下するという問題がある.この問題は動的電源電圧制御(DVFS)による省電力化の大きな障害となる.本論文では,複数の共有資源へのアクセスを調停することで競合の状況を調整し,その上でDVFSによって消費電力を削減する手法を提案する.まず共有資源への協調制御が消費電力に与える影響をモデル化し,電力を最小化する協調制御を導出する.次に,モデルに基づいた協調制御手法を構築する.
[推薦理由]
本論文では、今後主流となるチップマルチプロセッサを対象として、複数コアで共有されるハードウェア資源に対する制御を最適化し、さらに従前から低消費電力化技術である電圧・周波数制御と協調させる手法を提案している。共有資源は集積度の向上に伴い必然的に増大すること、および、消費電力問題も集積度の向上に伴いより深刻化するため、本論文が扱う問題は広範なシステムに存在するものである。また、提案されている電力最適化制御手法も、基礎的な理論の構築と、その理論に基づくアルゴリズムから論じられており、極めて汎用的な手法となっている。また提案手法の評価は、実システムを詳細にシミュレーションすることで網羅的に行われており、その有効性が客観的に論じられている。以上のように、扱う問題の重要性、適用範囲の広範さ、手法の汎用性、手法の有効性、いずれの点においても本論文の貢献は大であり、論文賞に値する。
佐々木広 君
2003年東京大学工学部計数工学科卒業.2005年同大学大学院情報理工学系研究科修士課程
修了.2008年同大学院工学系研究科博士課程修了.博士(工学).同年東京大学先端科学
技術研究センター特任助教を経て,現在九州大学大学院システム情報科学研究院特任准教
授.計算機アーキテクチャ,オペレーティングシステムの研究に従事.
高木紀子 君
2010年東京大学大学院情報理工学系研究科修士課程修了.同年,富士通(株)入社.スーパーコンピュータ・サーバ向けCPUの開発に従事.
近藤正章 君
1998年筑波大学第三学群情報学類卒業.2000年同大学大学院工学研究科博士前期課程修
了.2003年東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻修了.博士(工学).現在,電
気通信大学大学院情報システム学研究科准教授.計算機アーキテクチャ,ハイパフォーマ
ンスコンピューティング,ディペンダブルコンピューティングの研究に従事.
中村宏 君
1990年同大学大学院工学系研究科電気工学専攻博士課程修了.工学博士.現在,東京大学
大学院情報理工学系研究科教授.高性能・低消費電力VLSIシステム,ハイパフォーマンス
コンピューティング,ディペンダブルコンピューティングの研究に従事.情報処理学会よ
り論文賞(平成5年度),山下記念研究賞(平成6年度),坂井記念特別賞(平成13年度)
各受賞.