「スパイクレスポンスモデルの位相応答曲線」

2010年度論文賞受賞者の紹介

「スパイクレスポンスモデルの位相応答曲線」

[情報処理学会論文誌 数理モデル化と応用 Vol.3, No.2, pp.44-50]
[論文概要]

 本研究では,神経細胞の数理モデルであるスパイクレスポンスモデルから,位相応答曲線を解析的に導出する方法を提案する.位相応答曲線とは,周期振動する素子が示す摂動応答であり,素子集団が形成するネットワークの挙動を理解する上で重要な指標である.脳神経システムでも,神経細胞の膜電位が周期的振る舞いを示すことが観測されており,神経細胞の位相応答曲線を得ることは,脳の情報処理の理解に重要である.数理モデルを用いた本研究により,膜電位の応答特性と位相応答曲線の関係の解析的導出が実現し,膜電位の応答特性を記述した関数で位相応答曲線が記述できることが明らかとなった.



[推薦理由]

 本論文では,著者らは,スパイクレスポンスモデルから位相応答曲線を導出する手法を提案し,神経細胞が示す膜電位の応答特性と位相応答曲線との関係を解析的に明らかにしている.神経細胞の位相応答曲線は,近年の生物実験において広く測定されており,脳科学における重要な指標である.本論文は,生物実験で用いられている現象論的数理モデルと,神経細胞の膜特性を記述する生物物理的な数理モデルの関係を,理論解析により初めて明らかにし,生物実験の知見を数理モデル研究につなぐ突破口を開いた大変重要な論文である.以上のように,本研究は新規性・独創性が高く,研究内容も優れているため,本論文を論文賞に推薦する.

飯田 宗徳 君

 2007年関西学院大学理工学部物理学科卒業,2009年東京大学大学院新領域創成科学研究科修士課程修了,同博士課程在学中.2010年4月より日本学術振興会特別研究員.理論神経科学の研究に従事.2010年本学会数理モデル化と問題解決研究会賞プレゼンテーション賞,2011年本学会山下記念研究賞受賞.

大森 敏明 君

 東京大学大学院新領域創成科学研究科助教.博士(情報科学).2004 年東北大学大学院情報科学研究科博士課程修了.日本学術振興会特別研究員,科学技術振興機構研究員,アリゾナ大学研究員,東京大学特任助教を経て,2008 年より現職.計算論的神経科学,数理脳科学,神経回路網理論,確率的情報処理の研究に従事.2010 年計測自動制御学会生体・生理工学部会研究奨励賞受賞.

青西 亨 君

 東京工業大学大学院総合理工学研究科准教授.博士(工学).1998年大阪大学大学院基礎工学研究科博士課程修了.日本学術振興会特別研究員,理化学研究所BSI研究員,東京工業大学講師を経て,2008年より現職.非線形動力学,計算論的神経科学の研究に従事.1994 年ICONIP’94 Best Student Award,1995年日本神経回路学会奨励賞,1996 年電子情報通信学会論文賞,1998年日本神経回路学会研究賞受賞.

岡田 真人 君

 東京大学大学院新領域創成科学研究科教授.博士(理学).三菱電機,大阪大学助手,科学技術振興事業団研究員,理化学研究所BSI副チームリーダーを経て,2004年より現職.物性物理,神経回路モデル,計算論的神経科学,統計的学習理論,画像処理の研究に従事.1993,1995年神経回路学会研究賞,1997年計測自動制御学会生体・生理工学部会研究奨励賞,第17 回AVIRG賞受賞.