2022年05月02日版:辰己 丈夫(新世代担当理事)

  • 2022年05月02日版

    「新しい社会のあり方は、新しい学会のあり方に反映する

    辰己 丈夫(新世代担当理事)


     筆者が、新世代企画委員会の担当理事になったのは、2020年春のことでした。新世代企画委員会とは、学会の新しい「やんちゃな」を実行する「やんちゃな若手枠」の理事による委員会です。

     あれから約2年弱で、社会は大きく変わりました。キッカケはCOVID-19でした。しかし、それはあくまでもキッカケ。その前に、いろいろなことがあったのです。ここで、少し振り返ってみます。

     2020年4月から政府主導で小学校・中学校での「GIGAスクール構想」に基づく政策パッケージが展開され始めました。実は、この構想、COVID-19の感染拡大以前から準備されていたものでした。2020年から小学校の学習指導要領が変わり、プログラミングの学習時間を設定することが義務化され、2021年4月には中学校の学習指導要領が、2022年4月には高校の学習指導要領が変わることも決まっていました。なので、GIGAスクール構想は、着々と準備されていたのです。2019年末には報道などでより広く知られることになり、2020年初頭から関係者間で準備が行われていました。関係者は、社会の変化と同じデジタルによる変化を、学校教育の現場にも実現させるための準備をしていたのです。

     ところで、筆者が所属する放送大学は、元々、テレビを主体とした「放送」による授業を行っていました。対面の授業も実施し、さらに、単位認定試験は学習センター(国内に50カ所)などでの対面での受験でマークシートや筆記となっていました。ですが、2010年代後半から徐々にインターネット授業配信を好んで利用する学生が増えていました。また、対面授業をオンラインで、試験をCBT(コンピュータを利用した試験)やIBT(インターネットに接続したコンピュータによる試験)に切り替えるため、さまざまな検討をしていました。

     2020年2月、COVID-19の感染拡大が始まりました。GIGAスクール構想に基づいてさまざまな機器や教材が導入され始めていたのは奇跡でした。放送大学ではオンライン(ライブ)授業が始まりました。CBT・IBTの実施も現実になりつつあります。この2件だけを見ても、想定外のことは想定できなくても対応できる準備がされていたことが分かります。教員をされている会員の皆様の所属校(大学・高校など)でも、2020年4月から始まった授業や試験のオンライン化の流れを当事者として感じてる方も多いのではないでしょうか。

     ここで、昔を思い出してみます。筆者が大学生になったのは1987年4月でした。大学生の日々の生活は、今のITを活用した生活とはまったく違っていて、教室で紙の本を開いて黒板を見てノートをとり、図書館でコピーをとったりしていました。学食はもちろん現金払い、駅の改札は定期券を見せて通る人の長い列がありました。当時の大学生だった筆者から見えてない仕事でも、もちろん、今とはまったく違う仕事のやり方だったでしょう。今は、ほとんどの仕事がコンピュータ・ネットワークに支えられています。買い物も電子マネーを利用する人が増えてきたし、売上も、仕入れも、給料も、コンピュータを用いて計算しています。コンピュータを直接使ってない人でも、電話や鉄道・自動車、電力(送電網)を利用しているわけで、コンピュータなしには何もできない世の中になりました。

     このように、人々の日常生活が変化しているのと同じように、学会活動も変化しています。研究会や全国大会などは、この2年間、ほとんどがオンラインのみの実施となりました(一部、対面を併用したハイブリッド方式やブレンデッド方式もありました)。学会内の委員会も、ほぼすべてがオンライン会議となりました。東京から遠い地区に住んでる学会役員は東京への出張をしなくても会議に参加できるようになり、また、東京近郊在住の役員でも時間の制約が劇的に緩くなりました。

     さて、COVID-19の感染拡大が終了したとき、私たちの生活は、過去のようなやり方に戻るのでしょうか? 本会の会員の多くが「完全には戻らない」と答えるでしょう。それはなぜか。上に述べた35年前と、COVID-19感染拡大直前の2019年を比較すれば明らかです。仮にCOVID-19がなくても、私たちの社会はゆっくり変わっていきました。だから、COVID-19 が終わったからといって、完全に戻ることはないのです。

     ということは、学会活動も完全に以前のやり方には戻らないでしょう。私たちは、オンラインで開催する研究会や委員会の利点を知ってしまったのです。

     さて、新世代企画委員会は、2022年度で発展的に解散します。当委員会が行ってきた業務は、他の委員会に引き継がれます。これは、本会が、新世代の発想を取り込むのをやめたのではなく、すべての委員会や研究会などが新世代の発想を取り込むことが日常的になったからだと思います。これから変わっていくことの一つに、学会による広聴広報活動の刷新があります。情報処理学会の活動を、今の社会の仕組みに合わせて情報発信していくために、データに基づいた活動が始まっていきます。そこにはもちろん、ITを利用した施策が実施されることになります。

     そういえば、2025年度の大学新入生を対象とした、大学入学共通テストから、高校の「情報」が実施教科に追加されます。すでにいくつかの大学が、受験生の得点を合否判定などに利用することを表明しています。この動きも、もう、戻らない動きでしょう。

     筆者は、本会の新しい活動も、決して戻ることがないと考えています。つねに変わり続ける本会が、情報社会を支える人の交流の場所となることを、願っています。