2021年02月01日版:高橋 尚子(教育担当理事)

  • 2021年02月01日版

    「強烈な追風に吹かれた情報教育
    高橋 尚子(教育担当理事)

     昨年(2020年)6月理事に就任したとき、いったいどこまで何ができるのか、どんな貢献ができるのか、正直不安でした。しかし、その不安は1カ月もしないうちに飛びました。なぜなら、情報教育に追風が吹きはじめたからです。これまで、先陣をきった方々が開拓した地盤が、みるみる拡がり、舗装され、ビルが建ち、栄えていくような感覚でした。この1年半で新たに取り組んだ主な事項は、次のようなものです。
    • 初等中等教員向けの入会キャンペーン制度の実施
    • 高校教員向け「情報I」研修教材のMOOC制作と公開
    • 新指導要領に準拠した情報入試の模擬問題の作成や解説
    • 国立情報学研究所と共同した「情報科学の達人」プロジェクトの運営
    • 大学専門課程におけるデータサイエンス教育カリキュラムの策定
     これらは、大学の標準カリキュラムの策定や、ジュニア会員の活性化に端を発し、情報科教員への支援、高大連携のシームレスな情報教育、データサイエンス教育への進出など、今見えることすべてに挑戦しました。加えて、広報や渉外にも力を入れてきました。おかげさまで、文部科学省とも連携できるようになり、情報教育の有識者代表として声がかかるようになりました。

     2020年から新指導要領が始まり、小学校でプログラミング教育が取り入れられ、2022年から普通科の高校では情報の必修科目が1つにまとまり「情報I」となります。最近になって2025年の大学入学共通テストに「情報」が新設される方針、と国を挙げて本気で情報教育に力を入れる具体的な兆しが見えてきました。

     加えて、コロナ禍により、オンライン授業、テレワークと全国民に情報リテラシーが求められる状況に陥りました。これまで、情報の専門学科がない大学において、なかなか表に出ることがなかった情報系教員が担ぎ出され、協力を求められました。ようやく、大学に貢献できる場ができ、力を発揮できました。企業の中でも、情報系に詳しいだけでオタクと言われていた人たちも、目覚ましい活躍をしています。どれだけ、情報の知識やスキルが見直されたことでしょうか。

     学校で情報を学習していることすら知らなかった世間一般の大人たちも、さすがに今回の件で認識してくれました。GIGAスクール構想など、初等中等教育の児童生徒に情報機器が行き渡る近未来があることも現実になりました。子供たちはデジタルネイティブ・インフォメーションネイティブとして、新しいコミュニティや生活様式を作っていきます。大人たちも、おいていかれないよう、情報の知識とスキルを更新し、社会に適応していかないといけません。これに対し、私たちが行うべきこと、応援すべきことはたくさんあります。

     思い出すと、大学時代お世話になった先生の退官パーティで、「僕の専門は情報処理の教育だった」とおっしゃったことです。そこで「情報の教育は私が引き継ぎます!」と宣言したところ、「君に任せたよ」と言ってくださいました。そのときハッキリ自覚したのですが、どう動くかわからず模索しました。まもなくして、一般情報教育委員会から声をかけていただき、その後あっという間に情報教育の深みにはまり、加速して業務が増えていきました。その究極が、2016年に文科省の委託事業「超スマート社会における情報教育の在り方に関する調査研究」の『情報学分野の大学教育に関する現状調査』の主査です。続けて、「超スマート社会における情報教育カリキュラム標準の策定に関する調査研究」や、「情報学的アプローチによる『情報科』大学入学者選抜における評価手法の研究開発」に参加していました。

     最後に次の目標を見つけました。それは、情報教育に関するすべての項目をひとまとめにした「情報教育白書」を作ること。白書ができたら、私の集大成になるだろうなあ、と夢を見ています。


    参考:
    1)情報処理教育委員会「カリキュラム標準J17」
    https://www.ipsj.or.jp/annai/committee/education/j07/curriculum_j17.html
    2)高橋尚子、「情報教育はどこまで広がっているのか—分からないことを調べる苦難と今後のために」(トランザクション)教育とコンピュータ(TCE)Vol.4, No.1(2018-02-20)
    3)「情報学的アプローチによる『情報科』大学入学者選抜における評価手法の研究開発」
    http://www.uarp.ist.osaka-u.ac.jp/index.html