2024年11月28日版:首藤 一幸(企画担当理事)

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    「学会はなぜ会員を増やしたいのか?

    首藤 一幸(企画担当理事)


     理事や学会職員が参加する会議では、たぶんもうずっと、会員をどう増やすか?がホットな話題です。情報処理学会の会員数は1991年度末の3万1千人をピークに、現在は2万人前後です。たとえば、広報広聴戦略委員会の傘下には、ウェブ、SNS、情処ラジオ、ノベルティといったワーキンググループが10前後あり、学会の魅力をどう高めるか、魅力をどう発信していくか、皆で頭をひねっています。その目的は、会員の満足度向上だけでなく、会員の新規獲得および離脱防止も含みます。

     会員増、会員減防止のための施策は盛んに議論される一方、では、なぜ会員を増やしたいのか?までさかのぼって論じられることはほぼありません。会員増の目的はいろいろありますし、また、露骨には語りにくい、きれいなだけではない目的も混じってくるからかもしれません。

     わかりやすい目的は、会員からの会費収益でしょう。研究発表会や講演会といったイベント、会誌や論文誌の出版など、学会の活動にはお金が要ります。職員の給与や学会オフィスの賃料だって要ります。情報処理学会は年度あたり6〜7億円の収益・経費で回っています。2023年4月〜2024年3月の収益を見ると、イベント参加費などを含む事業収益4億7千万円に対して、会費は1億8千万円でした。会費は、割合は高くないものの事業収益より安定が見込めます。

     情報分野に身を置く、特に私のような研究・教育者としては、研究者・技術者の裾野が広くあってほしい、という目的もあります。裾野の価値については、note上の記事「稲見前編集長が考えた国内学会の変革と未来展望 その1 国内学会の存在意義とは」にて稲見氏が語ってくれました。裾野としての国内学会があることで、国内にいて会いやすい同好の士と母国語で伝え合って、磨いて、そして世界に打ち出す、というステップを踏むことができます。学生がステップを踏める場があることは教育者としてとてもありがたいことです。産業界にとっても、学生が成長できる場には価値があります。

     会費収益という目的はまっさきに思い浮かびますが、実のところ、収益が増えずとも会員数が増えれば、学会や構成員にとってメリットがあります。社会への発言力が増します。構成員が多いほど、そこからの発信なり提言なりは、無視できないものとなり、行政、代議士、企業その他法人、メディア、個人への影響力が増大するわけです。きれいに言うならば、社会に対してより大きな貢献ができるようになります。ありていに、少し自虐的に言うならば、利益団体としての能力が増します。現在の情報処理学会は、「同規模以上の会員数を有する日本の学会は現在10学会程度」(中期計画(2021年度〜2025年度)より)という規模を誇り、それを維持、できれば拡大しようとしています。

     現在の2万人強という会員数は、実は、2015年度に制度が始まったジュニア会員(大学なら学部3年生以下)が支えています。今では2万人強のうち実に3千4百人前後がジュニア会員です。そしてジュニア会員は会費無料です。きれいに言うならば、無料にしてでも、ジュニアにも学会の恩恵を届けたい、知ってもらいたい。ありていに、少し自虐的に言うならば、会費を払ってくれなくてもいいから、ジュニアなら巻き込みたいし、また、カウントできる会員数を増やしたい、ということです。お隣の電子情報通信学会も、2020年度にジュニア会員制度を導入しました。

     ジュニア会員制度の成功が示しているのは、収益増と会員増は切り離していい、ということです。たとえば、お隣の電子情報通信学会は2023年1月、ジュニアだけでなく大人に対しても会費無料のサービスを始めました。会員でこそありませんが、いくつかの特典があるアソシエートメンバーという制度です。会員か否かという段差の大きい2択ではなくて、その間をなめらかに埋める方法を模索しています。また、日本データベース学会では、情報処理学会DBS研究会か電子情報通信学会DE研究会の登録者であれば、正会員であるにもかかわらず、会費が無料になります。理事選挙の投票もできます。DBS、DEの両研究会にオーバレイする、重ね合わせる形で学会を作ったというわけです。収益は狙わず、会員になってもらうことだけを狙ったやり方です。これは、他学会との会費やイベント参加費の相互割り引き制度をもっと過激に行っている、という見方もできます。

     こうしたやり方は、学会からの恩恵に対して会員は会費を払う、という伝統的なやり方を基準に眺めると、ちょっと無理した制度ハックにも見えます。しかし、会員制度にも従来とは違ったデザインをする余地があったということを示していることは事実です。そもそもなぜ会員を増やしたいのだっけ?とさかのぼって動機からじっくり考えることで、デザインスペースの意外な広がりに気付けるかもしれません。
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