「変化する学会とは」
中野 美由紀(監事)
2021年度から2年間、続いて2023年度からも2年間「監事」を務めさせていただきました。監事は、法令および定款上の監事職務であり、学会の業務や財産の状況から監査報告を作成すること、が担務と定められています。情報処理学会における業務については、各理事からメッセージでお分かりのように、この1年間、さまざまな活動について報告されてきました。学会運営に携わる理事の立場からは、多岐にわたる学会活動を進めるにあたって、情報処理学会の財務が適正かつ健全に運用されることが求められています。一方で、学会を支える会員という立場から考えると、情報学という分野における本会の活動がいかに個々の会員にとって有益なものであったか、という観点が中心となるでしょう。約款上の監事業務としては、どうしても業務の遂行、財務状況の確認が中心となりがちですが、研究会運営から多岐にわたる事業の結果まで第三者の立場から学会運営全体を俯瞰することとなり、改めて情報処理学会の役割とは何かについて考えさせられます。
新型コロナによるパンデミックは落ち着きましたが、2023年度以降も学会イベントへの参加形態は対面とオンラインのハイブリッドが主流となっています。大学の講義などは全面的に対面に移行していますが、ハイブリッド開催となった会議等はその形態が継続されている場合が多いようです。現に情報処理学会全国大会の参加者も2019年度以前よりも増えており、社会自体がオンラインによる会議形態を上手に活用するようになったと感じられます。時間に縛られる現代社会において、オンラインによる業務、活動は移動などの負荷軽減につながり、情報収集のために気軽に参加できるという利点があるからでしょう。情報技術が社会の変革を促し、その支援を学会が行うことがうまくかみ合っていると感じます。情報処理学会としては、新たな人と人との関係性を作りあげる場として、既存のSNSも含め、ITの情報収集、交換の場をさらに広げることで、会員の利便性向上につなげて、新機軸の活動を進めていただければと思います。
また、すでに言い尽くされていますが、変化の激しい情報技術のなかでも、ITの激変としてChatGPTの出現があげられます。ChatGPTに関する議論は瞬く間に世界中に広がり、3年過ぎた現在、生成系AIの活用がさまざまな分野で始まっています。では、社会において生成系AIを利用するとき、信ぴょう性、信頼性あるいは根拠を知るすべは、どうすればよいのか。一般の人にとっては、あたかもChatGPTが対話の相手としての信頼できる個人であるように見えるかもしれません。しかし、会話の結果は学習したデータからの要約生成であり、個としての理解の上での説明でないことは、会話のような形での情報提示において、なかなか理解しにくいところです。一方で、新素材や創薬生成など、従来であれば長時間の実験が求められていた場において、候補の絞り込みを短時間で行える等、生成系AIの利活用が進んでいます。同様なことは、膨大なパラメタによるシミュレーションが必要な現代科学においても、さまざまな分野でAI for Scienceとして期待されています。IT研究者、技術者である我々はその本質を知り、人として、社会としていかに使えるかについて考察、議論でいる場を情報処理学会が提供し、社会のシステムとしての在り方を率先して示す時期に来ているのではないでしょうか。人工知能(AI)を組み込まれたシステム、特に社会基盤となるシステムの安全性、信頼性については、今後明らかにしなければならない大きな課題であり、情報処理学会が常に情報技術の最前線で最新の知識を提供、共有できることに期待したいです。
最後になりましたが、2024年度も情報処理学会ではさまざまな活動が中長期戦略の推進のもとに行われ、従来の研究に関する学会活動から発展し、小学校から中高生に向けた情報処理普及の取り組み、新たに始まった「情報」入試へのアプローチ、他学会の連動、ダイバーシティとしてジェンダーと情報の特集号など、広く活動しています。これらの活動は理事のメッセージをご覧いただければと思います。会長・副会長をはじめ尽力されている理事および事務局の皆様には頭の下がる思いです。監事2名は、学会員の皆さまの活躍と情報処理学会の今後に向けて、日本の情報分野の研究を推進するとともに、社会に向けて時宜を得た学会の在り方を検討、発信できるよう、学会への貢献をいたします。