2022年01月05日版:中小路 久美代(事業担当理事)

  • 2022年01月05日版

    「圧倒的に新しい『会議』体験の創出に向けて

    中小路 久美代(事業担当理事)


     私が事業担当理事の任についたのは2020年6月でした。理事に就任するより少し前の、2020年の4月だったかに、知り合いの知り合いの知り合い、といったくらいの近さ(遠さ?)の米国の知り合いから、「知り合いの学生が3人で作ったオンラインのコミュニケーションツールがあるからぜひ使ってみて」と、Online Town(theonline.town)という Webサイトを紹介されました。さっそく、研究室の学生さんたちと試してみました。Online Townは、応接間やらキッチンやラウンジを模した2次元の空間上を、自分のアイコンを矢印キーで上下左右に移動し、他の参加者のアイコンからある程度の距離に近づくと、その参加者とビデオ通話ができるというアプリケーションでした。動きはもたっとしてるし、きわめて素朴な感じでした。ただ、自分のアイコンを矢印キーで動かして別の参加者のアイコンに近づけていくにつれ、だんだんとその人の声が聞こえ始める、という体験は、かなり楽しいものでした。Zoomを使ったミーティングにちょうど慣れ始めたころで、参加者のうちひとりだけが全員に対してしゃべる、というZoomが要請するコミュニケーションの形態に、ちょっと不満を感じ始めていたころでした。Online Townの中で、参加者の中で小さなグループを作って内輪の話をするのはちょっと楽しいなぁとか思いながら、結局Zoomでの研究室ミーティングに戻りました。一緒にOnline Townを体験した学生さんたちに、自分たちでもぜひこういうの作ってみたら、と言ったきり、すっかりZoom三昧の毎日に戻りました。

     それから7カ月ほど経って冬が近づいてきたころ、翌年(つまり2021年)6月の創造性支援の国際会議の運営ミーティングで、会議をオンラインでするなら、Gather(www.gather.town)のサービスを利用しようという案が出されました。運営委員のひとりが、Gatherを使って150人ほどのグループワーク形式の実習講義をしているというので、見せてもらいました。見てびっくり、Gatherは、Online Townがうんとモダンになったようなまるでそっくりのサービスでした。これって完全なパクリではないかと一人で心配し、早速検索してみました。どうやらOnline TownがGatherとして発展した、といったことのようでした。講義で8月から使い始めていたということですので、4月から3カ月ほどの短い期間で、素朴な試作品としか見えなかったツールが、大規模なサービスとして広く運用され利用され始めていた、ということになるかと思います。

     Gatherのデモを見せてもらったのは、日本時間の夜11:00から始まったZoomミーティングでした。デモが終わって日付が変わる秋の夜に、一人でじわじわと、うわっという感覚を覚えました。そうだよなぁ、Online Townは、ちょっと面白かったもんなぁ、と思いました。「この程度だったら、プログラミング好きな学生さんたちが自分で作れるだろうなぁ」と4月に思っていたことも思い出しました。これがソフトウェアの凄さ、面白さ、ワクワクさだよなぁとも思いました。Online Townを紹介してくれた知り合いの知り合いの知り合いに、「投資したい」とか言っておけば良かったとも思いました。

     結局、その国際会議ではGatherをベースとして、論文発表にはZoomを利用しました。Gatherにおけるポスターセッションでは、私はオンラインで初めて、"nice to meet you"の会話を体験しました。つまり、それまで面識のなかった海外の人と、初めてオンラインで1対1で名刺交換的なことをしました。小規模会議だったこともあり、オンラインながら大変盛況に終えることができました。成功の鍵は、委員の一人が、Gatherの上でものすごく時間をかけてスペース(会場設定)を作り込んだことにあったのだろうなぁとも思えました。

     さて、この1年半は、事業担当理事として、毎年3月に開催される全国大会と、夏に開催されるFIT(情報科学技術フォーラム)などを担当してきました。事業担当理事に就任以降、これらはいずれもZoomベースのオンラインで開催されています。この原稿を執筆している時点では、来年(2022年)3月に開催される全国大会は、対面とZoomのハイブリッドで開催しようということになっています。

     私たちは、ソフトウェア、情報科学技術についての研究に携わる研究者や実務者です。私たち自身で、私たち自身の、仕事の仕方や人とのかかわり方、暮らしの在り方を変えていける「材料」と「道具」を持っているとも言えます。

     事業担当理事に就任し、学会員同士の、知識交換や知識共創、交流や相互触発の場としての会議やイベントといったものの役割や機能の本質を考えてきました。対面かオンラインか、といった大雑把な括りでの葛藤にとどまることなく、「材料」や「道具」を駆使して、圧倒的に新しい、これまでにないような「会議」体験を作り出していくことができればいいなぁと思い描く、今日この頃です。