「ポストコロナに向かう大会運営について」
湊 真一(事業担当理事)
私が事業担当理事に就任したのは2021年6月でしたが、新型コロナとの闘いが2年目に入った時期でした。直前の春の全国大会(大阪大)が2回連続で完全オンラインになっていて、夏の東京五輪も無観客開催となり、秋のFIT(東北学院大)も完全オンラインと我慢が続きました。幸い秋以降はワクチン接種も進んで感染状況が沈静化し始めていたことから、いよいよ2022年春の全国大会(愛媛大)は現地中心のハイブリッド開催に戻せると期待して、現地の先生方とともに秋から冬にかけて入念に準備を進めていました。事前参加登録数も順調に伸びていました。
ところが残念ながら2022年の年明け頃からオミクロン変異株による感染が再燃し、開催直前の判断で「まん延防止地域」からの現地参加は自粛要請となり、全体の95%がオンライン参加となってしまいました。それでも現地では全セッション会場でハイブリッド用機材が設置され、ほぼ誰もいない会場でアルバイト学生がZoom端末を操作し、発表者の音声だけが響き渡る、というシュールな光景が広がっていたことを憶えています。しかし今思うとこのときの経験が、数千人規模の大会をそれなりのクオリティで無理なくハイブリッド開催するための知見として、学会事務局や理事会に蓄積されていくきっかけになったと思います。このときはハイブリッド環境の費用が余計にかかったにもかかわらず、大会運営会計はほぼ収支均衡で回せたことも希望材料でした。
2022年秋のFIT(慶應矢上)は、コロナ後初めての本格的なハイブリッド開催の大会となりました。約2,100人の参加登録者のうち3分の1の約700人が現地参加、残りがオンライン参加という実績となりました。3分の1とはいえ、各セッション会場にはそれなりの人数の聴衆が入り、久しぶりの対面での議論の様子を見ると、やはりオンラインでは代え難いものがあると痛感しました。慶應大の先生方の多大なご協力もあって、ハイブリッド環境の構築もおおむね円滑に行うことができました。
その一方で、オンライン化された後のFITや全国大会の参加登録者数は、コロナ前の1.5倍程度に大きく増加しているという興味深い現象が起きています。これは、本務の仕事や家庭の都合で現地に行けなかった人がオンラインで参加できるようになったことが大きいと思われます。3分の1が現地参加したFITでも、オンライン参加を含む総参加登録数は減っていません。学生が現地で発表し指導教員はオンラインでフォローするという事例もしばしば見られるようになりました。
今年3月の全国大会(電通大)では、現地参加者が総参加登録のほぼ半分を占めるまでに回復しました。現地参加者数も2,000人を超え、会場の賑わいはコロナ前に近くなりました。しかも、オンラインを含む総参加登録数は依然としてコロナ前を上回っていて、その増収分でハイブリッド環境費用を賄う状況は継続しています。現地参加を中心として議論のクオリティは確保しつつ、仕事や家庭との両立を図るためオンライン参加も可能とする現在の大会形式は、ダイバーシティの観点でも望ましいと考えており、運営上可能であれば今後も継続していってほしいと思っています。
最近、欧米で開催される国際会議は完全に現地対面開催に戻っていて、多くの場合、オンライン参加はできなくなっています。世界中から人が集まる国際会議は、時差の問題が厳しく、日米欧のどこかでは就寝時間帯にかかってしまうため、遠隔での議論はなかなかうまくいきません。幸い日本国内の大会はタイムゾーンが単一なので、ハイブリッド開催でも時差による苦痛はありません。遠隔会議の運営においては、座長がオンライン参加では難しいとか、ハイブリッドでのポスターセッションが難しいとか、オンライン懇親会では親しくなりにくいとか、ほかにもさまざまな課題があります。ハイブリッド環境を提供するために現地参加者の満足度が低下してしまっては本末転倒になってしまうので、現地の環境品質を維持しながら、運営コストの許容範囲でうまく両立させることが求められます。今後も日本らしい、なおかつ情報技術をリードする学会らしい、独自の大会運営体制を工夫していってほしいと願っています。