2015年01月05日版:松原 仁(教育担当理事)

  • 2015年01月05日版

    「高校における情報の教育の現状

    松原 仁(教育担当理事)

     あけましておめでとうございます。本年も情報処理学会をよろしくお願いいたします。教育を担当する理事となって1年半が経過しました。大学の教員として日頃から教育を行っているのですが、学会の教育は大学だけでなく社会人、生涯および初等・中等・高等も所管しています。それらについては理事になってから初めて知ることが多いので、いい勉強になっています。ここでは高校の情報の教育について知ったことをご紹介したいと思います。まだ勉強が不十分なので不正確なところがあるかもしれませんがご容赦ください。

     高校では情報という科目が2003年度から必履修になっています。必履修という言葉は厳密には必修とは異なる専門(?)用語で、必ず授業を受けることが義務づけられているという意味です(逆に言えば授業さえ受ければ試験に受からなくてもいいということになります)。ということで最近の高校の卒業生はみんな情報の科目の授業を受けていることになっています。情報という科目が存在するということは、その科目を教える先生が必要になります。大学で情報関係の一定の授業を履修する(こちらは授業を受けるだけでなく試験に受かる必要があります)と高校で情報を教える免許を得ることができます。

     情報を高校で教えるのはいいのですが、さまざまな問題が生じています。まずは教えている内容が問題です。情報の授業がコンピュータやインターネットの利用講座になっている場合が少なくありません。ワープロや表管理のソフトの使い方を教えるというのが典型的です。これらのソフトは使えないよりは使えるほうがいいでしょうが、これらを使えることが情報を理解したことにはなりません。インターネットも使えるほうがいいでしょうが、今の時代は下手をすると先生よりも生徒の方が詳しいかもしれません。世の中にも情報の勉強はコンピュータやインターネットの利用法を学ぶことであると誤解している人が多いですが、高校もそういう実態なのです。

     まだ利用講座をやってくれればましな方です。情報の授業の時間に数学や理科を教えている高校がかなりあります。特に受験校と言われる高校でその傾向が顕著です。中学で技術の時間に他の受験科目を教えている学校がかなりあるのと同様です。必履修であるはずの情報を教えていないのです。

     そもそも高校に情報の免許を持った先生があまりいません。それは高校が情報の免許を持った先生を採用してくれないからです。情報の授業はコマ数が少ないので、情報の免許だけを持っている先生は高校として正規教員として雇用しにくいのでしょう。やむを得ない場合は文科省に申請して許可を取ればその授業の免許を持っていない先生が代わりに授業をしていいという規則があります。それは情報だけを対象とした規則ではないのですが、いまこの規則が適用されているのはほとんどが情報です。いくつかの都道府県では大多数の高校に情報の免許を持った先生がいません。それらの高校では文科省に代替の許可をもらった他の科目の先生が情報を教えていることになっています。彼らは情報のことを知らないのですから、情報のことを教えていないのはむしろ当然と言えるでしょう。

     やはり大学の受験科目に情報がない影響が大きいと思われます。受験に関係ないので専門の先生も雇わないし、専門の授業もしなくて済んでいるのでしょう。情報処理学会もセンター入試の科目に情報を含めるようにという活動をしているのですが、その実現は簡単ではありません。それでも入試で情報を出題している大学はあります。私が勤める公立はこだて未来大学は、しばらく前からAO入試の学力試験の選択科目の1つとして情報を出しています。いくつかの(情報系の)私立大学もすでに情報を出題していたり,これから出題することになっていたりします。この動きが広がってほしいと思っています。

     情報処理学会は今年度から教員免許の更新講習を始めました。こういう活動を通じて高校の情報の教育を少しずつ改善するお手伝いをしたいと考えています。教育の活動にご協力いただけますようお願いいたします。