「初めての世界」
倉本 到(調査研究担当理事)
本記事に先立ち、現在も予断を許さないCOVID-19拡大に際し、同感染症にてお亡くなりになられた方々へ哀悼の意を表しますとともに、ご遺族の皆様に謹んでお悔やみ申し上げます。さらに、罹患された方々へお見舞い申し上げますとともに、感染拡大阻止にご尽力くださっている皆様に篤く御礼を申し上げます。本学会も全国大会始めさまざまな集会が遠隔開催に移行するなど、短い期間でありながら、調査研究のみならず学会の活動をギリギリまで支えるべく多くの皆様に甚大なご協力を賜っており、調査研究担当理事としても感謝溢れる次第です。本当にありがとうございます。
非日常的な事態に直面して私たちは「初めて」の体験をまさに今しているわけですが、そもそも私が引き受けた学会理事という業務も初めての経験でした。しかも、わたしは所属する福知山公立大学にて初めて教授として奉職するとともに、次年度より新しく開かれる情報学部の設立に参画するという初めての職務を引き受けるという、初めてづくしの環境で生活をしています(ついでに、単身赴任も初めてです)。初めての環境や仕事というのは一見とても大変なのですが、振り返ってみると、元来面倒くさがりの私のこれまでの活動は、それは研究や教育や自分の生活を含めて、この「初めて」という環境に支えられてきたのだなと強く感じることがあります。
新しい環境で初めてのことを行うときに、何をどうしていいかを事前に知っているということは普通ありません。ですので、自然に試行錯誤や情報収集、相談などのプロセスが発生します。一方で、すでに安定したルーチン業務だと、それに慣れている人からすると、これらのプロセスは不要です。この当たり前の差が、私がさまざまな「初めて」を引き受ける強い動機になっています。つまり、初めてのことであれば「わからない」ことに対する不安が低く、それだけそのことに打ち込む意欲や隙が生まれます。逆に、自分の預かり知らない場所で定まっているルールに乗らなければならない場面では、「わからない」ことが業務の邪魔になったり他者の負担になることをつい想定してしまって試行錯誤や相談を控えてしまい、かと言って黙っていても業務ができるようになるわけではないので、業務遂行に対する不安が増大し、結果として業務がうまく回らないという状況に陥ってしまいます。一見業務量が増えたとしても、余計な気を回さないでいられる初めてづくしの環境が私には合っているように思います。
ところで、学会の調査研究活動といえば、普通「世の中にない新しいことを見つけたり押し進めたりする」ことを支える活動ですので、その支援策が常に、旧来どおりの安定したルーチン業務のまま常に持続するとは期待できません(と私は思います)。そういう意味で、私はうまく「初めて」に支えられ、未知の環境でこの調査研究にかかわる仕事に触れることができ、さまざまな試行錯誤を経つつ、次々とやってくる「初めて」にある意味楽しみながら能動的に活動ができたのかなと思っています。たとえば、ある特定の研究領域に焦点をあて(られ)ない横断型の研究の進展に対して遅れていた領域制の組織構造に対し、「初めて」領域横断型研究グループを設立可能にしました。そのような改善が、小さな一歩ではあるものの、調査研究組織の変革の先鞭として機能しはじめています。ただでさえスピードの速い情報学の研究領域では、また、研究活動の市民化という新しい様相が形を成しつつある情報学を取り巻く環境では、このような「初めて」が今後次から次へと発生し、それに応じて「初めて」のことを学会も数多くこなしてゆく必要が出てくるでしょう。そして、新しいことを押し進める学会としてのありかたは、そんな中で成長してゆくのだろうと感じています。
会員減などの難しい課題をたとえば理事会や各委員会で議論する際には、単なる延長線上の改善では根本的な解決はできないという意識の下、学会の新しい成長した姿が見え隠れしつつあります。これまでの踏襲ではなく、今までとは異なる初めての世界に対応した新しい情報処理学会が、今後も情報学に関係する皆様とともに歩んで行けるよう、「初めて」に直結した分野である調査研究の立場から、これから発展することを願っています。