「標準化活動に参加して」
河合 和哉(標準化担当理事)
標準化担当理事に就任して、あっという間に1期目が終わり2期目もすでに後半に入りました。標準化担当理事の任期は2年ですが、通算4期までと担当する期間が長いところが他の理事のみなさんと異なっていますが、環境が許す限り務めを果たしていきたいと考えています。
情報処理学会では、産業標準化に関する調査・審議を行う経済産業省の審議会である日本産業標準調査会(JISC)から情報技術(IT)分野の国際標準化を所掌する、ISO(国際標準化機構)とIEC(国際電気標準会議)の共同技術委員会であるJTC 1の国内審議団体を受託しています。標準化担当理事は、情報規格調査会の委員長として、JTC 1に対する日本の代表者として、国内での審議とともに国際対応をしています。
情報技術の国際標準化を担当するJTC 1ですが、位置付けとしてはISOに約300、IECに約150ある技術委員会の1つなのですが、開発した規格の数を見てみると、ISOで開発された規格が約24,000、IECで開発された規格が約10,000であるうち、JTC 1は約1割の3,500を超える規格を開発している非常に大きな技術委員会です。開発している規格類の技術分野も、情報技術の基盤となる文字コードやプログラミング言語から、情報セキュリティやそのマネジメントシステムであるISMSの規格群、人工知能に関する規格類など非常に幅広く、現在、傘下に23の分科委員会を設置して規格を開発しています。量子情報技術についても規格開発を始めていましたが、昨年、新たに量子技術を担当するJTC 3が設立されたことから、量子関連の規格開発はJTC 3に移管されました。しかし、JTC 1としても今後標準化すべき技術分野についての議論をしていますので、新たな分野の議論が順次始まっていくものと思います。新しい分野は、特定の技術分野に収まらず、複数の技術分野が関連するシステム・インテグレーションに関するものが増えていくように思います。
JTC 1として議論をしている中で最近気になるのが、その議論の範囲が非常に広くなっていて、特に新しい分野については、情報処理学会で議論されている分野を超えるものがでてきていることです。たとえば、人工知能に関する標準化活動を例に挙げると、そもそも学会としても専門の人工知能学会がありますし、これまでJTC 1で議論してきた技術議論を超えた、倫理、認知バイアスや安全などに関連した議論がされていますし、欧州AI法に関連して必要な規格開発が提案されるなど、規格開発の背景情報として政策面での情報収集が重要になっています。また、消費者保護に必要な標準化活動が提案されて、新たな分科委員会を設置して活動を始めることになっています。ブレイン・コンピューター・インターフェースについては、JTC 1では医療系に関することは扱わないことになっていますが、少なくとも日本国内では、この分野については医療系の方が中心となって議論されているなど、現在の賛助会員として活動に参加いただいている情報規格調査会の審議体制では、なかなか専門家に直接リーチできない分野の議論が増えてきています。解決策は1つではないと思いますので、みなさんのご意見を伺いながら、検討していきたいと考えています。
また、技術開発とその社会実装において標準化を行うフェーズが変わってきていることを感じています。人工知能が象徴的なのですが、技術開発のスピードが非常に早くなっている上に、技術が成熟するまでに、並行して社会実装が進んでいます。従来の標準化では、技術が開発されてから、その社会実装に向けて必要な技術に関連した規格を開発していく面が強かったのですが、近年、市場からのフィードバックを受けながらさらに技術開発が進むようになっている中で、標準化も従来に比較して技術開発の非常に早い段階からスタートしています。このため標準化の対象も、技術そのものではなく、技術を使っていく上で必要な議論が活発に行われています。
このようなJTC 1を取り巻く環境の中で、日本国内に限ったことではありませんが、標準化活動への参加者の高齢化が大きな課題になっている中で標準化活動の継続性のためにも、標準化活動に参加いただく方を増やしていく取り組みが欠かせないところです。現在、JTC 1の活動に参加いただくには、情報規格調査会の賛助会員になっていただくことが必要なので、まずは情報処理学会の中でJTC 1の活動をもっと知っていただこうと、一昨年から全国大会で企画セッションを開催させていただいていますし、情報処理学会の外部に対しても、これまで標準化活動には縁がなかった方々にも、まずは活動を知っていただき、仲間を増やしていこうと広報活動にも力を入れていきたいと考えています。