2023年11月30日版:鎌田 真由美(財務担当理事)

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    「財務理事三遷

    鎌田 真由美(財務担当理事)


     2022年より財務理事を拝命している鎌田真由美です(日本マイクロソフト(株))。

     情報処理学会以外も含めると学会関連での財務関連の役職は3つめになります。

     最初の財務理事は、人工知能学会で2010年6月~2012年6月の2年間の任期でした。このときは法人制度が変わり、多くの学会が社団法人から一般社団法人へと移行したタイミングでした。たまたまこの時期に財務理事になったため、移行に関する多くの会計処理や変更処理が発生し、当初聞いていたよりもはるかに深く理事の仕事に取り組むこととなりました。学会の財務の詳細を仕分けし、法人格の変更の準備、そしてそれに伴う会計上の対応を「中の人」として経験できたことは非常に貴重な経験なのですが、当時は予想と違うハードワークに戸惑うことも多くありました。もし今の私が同じ状況で財務理事を要請されたら、きっとほくそ笑んでお受けするのは間違いないのですが、最初の財務理事は想像以上の仕事量に驚いた2年間でした。とはいえ、私の数倍大変だったのは事務局の方々で、通常の会計業務に加えて、この大仕事があり、抜け漏れがないよう常に念には念を入れて対応されていたのが強く心に残っています。

     次の財務は2021年から2022年までということで打診をいただき就任したIEEE Bigdata 2022 OSAKAカンファレンスの日本側の財務担当理事(Local Finance Chair)でした。この仕事は、2022年12月にカンファレンスが終わった後も続き2023年9月まで3年間近い長丁場となりました。

     コロナ禍で、ほとんどすべての国際学会のカンファレンスはWeb開催あるいは中止となったことは記憶に新しいと思います。2021年、コロナ対応が少しずつ緩和され、来年は以前のように開催できるのでは、と予想できるようになってきたころに某教授から打診がありました。IEEEといえば世界に名だたる学会であり、自分自身も発表したりワークショップなどに参加していたので、基本的に財務全般はIEEE側がしっかり把握されるものであり、ローカルコミッティは補助的な仕事と勝手に思い込んでいました。おそらく、日本のスポンサーシップで集まったお金の管理や、日本国内の出費の管理報告を任される程度と予想してお引き受けしました。しかし、ふたを開けてみるとIEEEといってもそのコミュニティが米国以外でカンファレンスを開催するのは初めてであり、かつコロナ対応の入国制限緩和も流動的な状況が続いたため振り回されることが多くありました。結局、IEEEの財務担当者と大会委員長、日本側の委員長やコミッティメンバなどを含めての意識合わせに始まり、Finance Chairの私が管理用Excel作成から更新までの仕事を引き受けることとなり、平日の深夜や週末を費やしてしまうことが多々あるという、ハードワークになってしまいました。

     今後の参考になるかもしれないので、この国際学会のカンファレンスの財務担当として学んだ「注意すべき点」を挙げてみます。
     
    • 銀行口座開設の困難さ …… 個人の口座ではなくこのイベント用に銀行口座を開設することが必要ですが、犯罪防止の観点から昨今こうした一時的な目的での銀行口座開設が非常に難しくなっています。とはいえ、この独立した口座がないと企業からのスポンサーシップを受け取ることも難しくなるという悩ましいポイントです。
    • IEEE側と日本の担当の明確な区分けが必要 …… 参加費用は米国IEEEのサイトから申込され支払われます。日本側はその全体収支を知ることもできない中、日本のファイナンス担当として何を決めていけるのか、過去の例がないため最後まで試行錯誤をしていました。結果的には成功だったようですが。
    • 為替リスクの配慮 …… 特に支払い関係で金額の大きい会場費やバンケット費用は直接IEEE側から国際送金されましたが、見積もり時から支払い時の間に為替変動の影響を受けたり、支払いの後に端数の微調整が発生したときは日本側にて対応を取らざるを得ませんでした。
    • 事前のデポジット(預かり金)なしの運営 …… IEEE側の会計の基本的ルールは事後精算であり、日本側にあらかじめデポジットがされませんでした。個々の支払について請求払いが前提になることは個人にとってはリスクです。そのため日本コミッティが受け取るスポンサーシップ代をデポジットとして扱い、最終的に経費と相殺してIEEEに送金することを説明し、適宜支払いを実現したのですが、その説得が困難をきわめました。
    • 日本の支払習慣への理解不足 …… カンファレンスで人数が多い場合、予約時から当日までの段階的な支払いをすることが多いのですが(予約時に50%、開催前に80%の支払、など)、そのやり方への理解不足により、事前払いがなかなかできず、支払い遅延が発生し開催が危ぶまれる事態も起き、その間に挟まれての説得がかなりのワークロードでした。
    • 補助金支払いのタイミング …… 今回は地方自治体や中央官庁からのインバウンド促進や対面イベント促進を目的とした補助金を得ることができたのですが、12月実施のカンファレンスの開催報告を送り、その審査が終了しても補助金が支払われるのは年度末(3月末)であり、財務を〆ることができるのはその後になります。カンファレンス終了後も仕事がなかなか完了しなかった大きな理由の1つです。

     IEEEの財務の仕事は、想定をはるかに超えるハードワークになったのですが、もしもまた同様のLocal Finance Chairを引き受けることがあれば、この経験を活かしてもう少しうまくやれるのではないかと思います(もしかすると資金のやり取りや各種システムが変わることで、もっとやりやすくなるかもしれませんが)。

     そして、2022年より情報処理学会にて通算3度目の財務理事を拝命しております。約2万人の会員を擁する日本における最大級のIT関連学会として、幅広い層に学会サービスを提供するこの組織の財務は、非常にバランス感覚にすぐれたものだと感じています。

     言うまでもなく、学会の財務は会員の方が納める会費が基盤であり、会員の方にどれだけ満足いただけるかは会員数の維持向上に影響しています。もちろんイベントや出版などの収入も重要ですが、会費は単なるお金ではなく、学会への期待であると感じます。

     また、情報処理学会の会計は予算作成時にはオーバーしていますが、担当委員の方々の奮闘により、年度終わりまでに適切なものにおさまっています。大人の努力なのでしょうか、バランス感覚がとてもよく表れているように思います。

     一方で、少しメリハリの利いた投資をする面があってもいいように思います。

     これは財務理事という立場にこだわらずのコメントですが、特に期待したいのは、情報処理学会の顔にふさわしい新しい技術を導入したホームページや各種ツールの充実です。この領域には、ぜひ継続しての改善を検討されてはどうでしょうか。「さすが、情報処理学会」とサイトを訪問された方々に好印象を与えるホームページの維持には、継続的な更新が必須と思います。このところ数年かけて学会のホームページは明るく分かりやすいものになってきています。これを一過性の「改修予算」ととらえず、対外的に効果が期待でき先進性をアピールできる場として、少し長期視点で継続的な質の向上のための予算を取る価値はあると思います。 

     「企業の方なので財務を担当してください」と言われることに居心地の悪さを感じながら財務という役割を務めていた時期があります。しかし、人のお金の使い方(何に・いくら・どんなときに)がその人となりを表すように、学会の財務もまた、学会の姿を映すものとして、なかなか奥深く貴重な経験であり、財務理事も悪くないと思うようになりました。

     もし、次は財務理事をやってみたいという方がいらっしゃれば、喜んでアドバイスもさせていただきますので、どうぞお声をかけてください。
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