2021年10月04日版:鎌田 真由美(技術応用担当理事)

  • 2021年10月04日版

    「ファクトフルネスな価値を目指して

    鎌田 真由美(技術応用担当理事)


     技術応用担当理事に就任して2年目となりました日本マイクロソフトの鎌田(板倉)真由美です。僭越ながら私がこの役割を通じて思うことを述べさせていただきます。

     本題に入る前に少し横道にそれた話をさせてください。

     2019年1月に発刊された書籍の『ファクトフルネス』☆1は、1年以上続くコロナ禍の中、さまざまな書評で取り上げられ、2020年もビジネス書売上の上位に常に位置していました。私も買って読みましたし、SNS上でも多くの感想を目にしました。この本がコロナ禍に多くの人に読まれた背景には、人々に自分が受け取っている情報への漠然とした不安があったのではないかと思います。繰り返し伝えられる新規感染者数、陽性率、病床使用率などの言葉と数字、そしてセンセーショナルな映像の洪水の中で、心が揺さぶられる日々。ファクトフルネスの「10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣」という提案は、正しく理解し行動したいと願う人々の心に響いたのだと思います。そしてファクトフルネスは、学問を修める者が常に心にとめて行動する根本的な原則であり、学会という存在にとっても忘れてはならない原則だと思います。

     さて、技術応用担当理事として担当している仕事は複数ありますが、メインとなるものは連続セミナー☆2です。

     連続セミナーは、“企業のITエンジニア向けの連続セミナー、短期集中セミナーなどは魅力的なテーマを選定し、活動を活性化する”目的で、毎年旬なテーマを中心に選択してシリーズでご提供しています。非会員の方にもご参加いただける開かれたセミナーであり、本会が目指す「会員だけの学会でなく、社会の中の学会であり、さまざまなコラボレーションを通じて新しい価値を創出し、社会に還元し、ニューノーマル時代を切り開いていく」役割の一端を担うものです。

     連続セミナーでは各回に設定されたテーマについて、真摯に追究してきた研究者や実践者などの第一人者がそれぞれの切り口から惜しみなく情報を共有していただいています。ここにあるのは検索機能で集めた断片的な情報ではなく、該当テーマについて積み重ねた研究やそれを現実世界に適用している状況など、良い点も改善が必要な点も含まれた磨き上げられた情報であり、配信中であればチャット機能を活用した講演者との質疑応答もできます。テーマによっては今後についての知見も共有されるでしょう。連続セミナーは選び抜かれた各回のテーマに対して複数の視点から読み解こうとする、まさにファクトフルネスな価値観で企画されています。

     連続セミナーはこの2年間で大きく姿を変えました。コロナ禍以前は年6回のシリーズで、各回絞り込んだ旬なテーマについて複数の識者の方々からセッションが提供され、会場に足を運んだ参加者とコミュニケーションをとりながらほぼ1日を費やす形式で行われていました。しかし、コロナ禍で昨年の開催は全面オンラインとなり、途中から見逃し配信も整備されました。今年度はさらに1回あたりの時間を2時間程度としつつ、年12回の開催へ変更するなど、ニューノーマル時代にふさわしい情報発信のための試行錯誤を続けているところです。

     連続セミナーは6月に開始し、最終回の12月7日の「量子インターネットと量子サイバースペース」まで続いています。ちょっとキャッチーで知っておきたいテーマについて、検索ワード以上のファクトフルネスを得たい方にとっては良い機会ではないでしょうか。一人でも多くの方のご参加をいただけるのであれば、担当理事として何よりの喜びであることは言うまでもありません。


    ☆1 (日本語版)ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド 著:FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣、日経BP社刊、ISBN 978‐4‐8222-8960-7

    ☆2 連続セミナー2021 ニューノーマル時代に向けた情報技術の潮流(オンライン開催)
      https://www.ipsj.or.jp/event/seminar/2021/index.html