「若い世代の皆さんへ」
岩嵜 正明(財務担当理事)
財務担当の理事を務めさせていただき、早くも1年が過ぎました。この1年で、財務担当という立場上、本学会の収入に大きな影響を与える会員数を意識するようになりました。正直なところ、理事となるまでは、私自身が学会の運営に携わった経験に乏しく、会員数を意識したことはありませんでした。
理事として活動するようになり、理事会や各種の委員会に参加して、会員をいかにして増やすかということについて、多くの時間を割いて議論がなされ、また、具体的な施策が提案、実施されていることを理解しました。ここ数年にわたる試行がなされ、来年度から本番となるジュニア会員制度もそうした施策のひとつです。
さて、ビッグデータ解析が話題の今日この頃ですが、私も本学会の会員数の増減動向について、いろいろと分析してみました。会員数の年齢分布、学術界と産業界の会員比率やその年齢分布、男女比率の年齢分布、入会者数や退会者数の年齢分布、退会率の年齢分布など、久しぶりにプログラミングを楽しみながら、いろいろと分析してみました。
その結果、徐々に女性会員の比率が上昇していること、あるいは、60歳代の半ばを過ぎると退会率がやや上昇していることなどが判りました。前者は喜ばしいことです。後者は残念ではありますが、定年を迎えて現役引退ということもあり、ある程度はやむを得ないことかもしれません。
ところで、今回の分析を通して、非常に気になる点がありました。それは、若手会員、特に20歳代の皆さんの退会率の高さです。他の年齢層では、退会率(年度ごとの会員数に対する退会者の割合)はおおむね5%前後です。上述の60歳代後半でも十数%程度です。ところが、20歳代の皆さんの退会率は、30%から60%近くに達しています。退会率のピークが26歳というところから、大学院を卒業して就職後、1〜2年以内に会費未納で会員資格喪失という方が多いと予測されます。
この原因としては、学会側が改善すべき問題もあると思います。たとえば、就職後の連絡先の変更手続きがオンラインで行えない、あるいは、企業に就職した若手の皆さんに魅力的なサービスが不足しているなどでしょう。
しかしながら、若い世代の皆さんにも、ぜひ考えてほしいことがあります。本当に、本学会の会員であることの意味がないと言えるのでしょうか? 人間は歳をとりますから、若い世代が減少すれば、いずれ学会は衰退します。日本から情報処理学会が消滅すれば、長期的視点でみれば、日本のIT業界の国際競争力は低下するでしょう。IT技術の急速な進歩によって、ITが現実世界と密に連携する時代が訪れようとする時代に、本当にそれで良いのでしょうか?
IT業界は、よく、Dog Yearだと言われます。人間より7倍くらい成長が早い犬のように、急速に進歩する業界だという意味です。最近では、Mouse Yearとさえ言われています。企業で働いていると、日々の仕事に追われて、新しい技術を学ぶことを忘れがちです。進歩の速いIT業界で、新しい技術を学ばなければ、早晩、淘汰されます。30年以上、この業界に身を置いてきた先輩として言わせていただけば、今、皆さんが身につけている最新技術が、10年後には歴史的遺物になっている可能性もあります。
直接的なメリットは少ないように思えるかもしれませんが、時々、学会誌や論文誌の目次に目を通し、目新しいキーワードを知るだけでも、あるいは、時々、学会の行事に参加して、大学や他社の人たちと会話するだけでも、学会というコミュニティに参加している価値は十分にあると思います。
本学会を苦労して立ち上げた先輩方は、情報処理の専門学会が必要と感じたからこそ、労を厭わず努力されたのだと思います。私は、財務担当理事として、若い皆さんに魅力的な学会となるように、力を尽くしたいと思います。同時に、「あまり役に立たないからやめる」ではなく、自分たちが、より有益な学会に変革するといった若い世代の台頭に期待しています。
退会しようかなと思っているそこの若人、ぜひ、君の才能を少しだけ学会で生かしてみませんか?