「情報技術に関する国際標準化活動(ISO/IEC JTC 1)の近況」
伊藤 智(標準化担当理事)
標準化担当理事は、情報処理学会/情報規格調査会の委員長に就任し、情報技術に関する国際標準化を行っているISO/IEC JTC 1の総会に日本代表団の長(HoD:Head of Delegation)として参加しています。今回のメッセージでは、最近のJTC 1の動きについてお話したいと思います。
JTC 1は文字コード、画像・映像圧縮コード、RFIDやQRコード、情報セキュリティ、ユーザインタフェース、バイオメトリクス、クラウド、グリーンIT、ITガバナンス、IoT、人工知能等、情報技術にかかわる多方面の技術領域に関する国際標準化を推進する標準化組織です。技術領域ごとに分科委員会(SC:Subcommittee)が設置され規格開発が進められていますが、年に1回(原則は11月の第2週)、総会として組織全体の運営に関する会議が開催されます。
直近の総会は、2018年11月にスウェーデンのストックホルムにおいて4日間にわたって開催され、24カ国から約100人が参加する会議となりました。多くの分野にITが活用されるようになり、ITの標準化を行うJTC 1でも活動が増えており、委員会等の組織の数が増加傾向にあります。
2016年のリレハンメル(ノルウェー)総会ではSC 41(IoT関連)、2017年のウラジオストク(ロシア)総会ではSC 42(AI)、が新設されました。2018年のストックホルム総会では、スマートシティに関する委員会を新しいSCとして設置する提案が中国等から行われましたが、コンセンサスが得られず、設置には至りませんでした。分科委員会という大きな組織の新設には至りませんでしたが、今後の標準化活動の可能性を調査研究するSG(Study Group)が多く新設される年となりました。いくつか紹介したいと思います。
Study Group on Trustworthiness
一般的には信頼性と訳されますが、IoT、AI、情報セキュリティなど、情報技術のさまざまな分野で異なる観点からtrustworthinessの捉え方に差異があることから、JTC 1レベルでの共通認識を整理することなどを目標に活動を行っています。
Study Group on Data Usage
データの利活用が進む中、プライバシーの観点から、秘匿化技術、差分プライバシー、準同型暗号、再識別リスクなどの議論がありますが、データの利活用はtrustworthinessと同様、情報セキュリティ、クラウド、IoT、AIなどさまざまな技術分野に関係するテーマであるため、JTC 1レベルとして何を検討すべきか整理するために、調査研究グループが設置されました。
Study Group on Quantum Computing
量子コンピューティングに関する調査研究するグループです。IEEEでも用語の定義などの検討が始まっていますが、情報処理の観点から、現状分析と、今後の取り組みが必要な標準化テーマを見出そうとしています。
Study Group on Autonomous and Data Rich Vehicles
自動運転やコネクテッドカーなど、今後の自動車ではITの活用が不可欠になることから、標準化のテーマの掘り起しを検討するグループとして設置されました。ITSについてはISO/TC 204(高度道路交通システム技術委員会)で取り組まれているので、その委員会との棲み分けが課題となります。
このほかにも、Study Group on Open Source SoftwareやStudy Group on Meta Reference Architecture and Reference architecture for systems integrationなどを含め、10を超えるグループがJTC 1直下で活動しています。これらの活動に対応するため、TrustworthinessおよびData Usageにはそれぞれアドホックグループを、その他の組織にはJTC 1 サブグループ対応小委員会を国内に設置して対応しています。
なお、ITの進展が早いことから、JTC 1の活動のサイクルを早くすべきとの意見が多く、総会の回数を増やすことになり、2019年からは5月と11月の2回開催することになりました。今後のJTC 1総会の開催予定は、2019年5月米国/マウイ島、11月インド/ニューデリー、2020年5月アイルランド/リメリックシティ、11月日本/岡山となっています。
JTC 1での活動に関心をお持ちいただけた方は、ぜひ、情報規格調査会にお問い合わせください。一緒に活動していきましょう。