「システム標準の開発に向けて」
伊藤 智(標準化担当理事)
この4月に、産業技術総合研究所から新エネルギー・産業技術総合開発機構に異動することとなりました。引き続き標準化担当理事を続けさせていただきますので、よろしくお願いいたします。
私が標準化担当理事として委員長を務めている情報規格調査会では、ISO/IEC JTC 1の国内対応委員会として情報技術に関する国際標準化に貢献しています。現在、JTC 1では、システム標準の開発がホットな話題となっています。複数の技術が組み合わされて成り立っているシステムを対象として、必要となる標準を開発しています。JTC 1/ SC 38(SC: Sub committee)においてすでに取り組まれているCloud Computingに関する規格もシステム標準に該当すると考えられますが、JTC 1の親であるIEC(電気・電子技術の国際標準化委員会)が2014年にシステム評価グループ(SEG: Systems Evaluation Group)および、システム委員会 (SyC: Systems Committee)という新しい組織形態を導入して、システム標準に取り組むことにしたことがきっかけとなって、JTC 1でもシステム標準への取り組みを明示するようになりました。現在IECでは、SyC Smart Energy, SyC Active Assisted Living, SyC Electrotechnical aspects of Smart Citiesというシステム委員会とSEG6 Non-traditional Distributed Networks/Microgrids, SEG7 Smart Manufacturingというシステム評価グループが活動しています。
JTC 1では、IECのようにシステム標準を開発する組織に特別な名称を与えてはいないものの、その組織の設立時に、システム標準を開発する組織であることを明示しています。現在は、WG 9 on Big Data(主査:米国), WG 10 on Internet of Things(主査:韓国), WG 11 on Smart Cities(主査:中国)という3つの作業グループが、JTC 1直下に組織され、システム標準の開発を行っています。これらのWGでは、システムにおける基本的な規格を開発することが期待されており、用語や参照アーキテクチャの開発から取り組んでいます。今後、参照アーキテクチャを基礎に、ギャップ分析を行って、欠けている規格の策定に移っていきます。インタフェース、セキュリティ、マネージメント、評価などの側面はその候補です。また、JTC 1では、これら3つのWGのほかに、Smart manufacturingや3D printingなどについて新規テーマの検討を行っており、新たなシステム標準の候補となる可能性があります。
なお、2016年の11月にリレハンメルで開催されたJTC 1総会において、IoTに関しては、SC 41 on Internet of Things and related technologiesへ格上げとなることが決まりました。2017年の5月29日に第1回目のSC 41総会が開催予定です。JTC 1/ WG 10を中心に、JTC 1/WG 7 on Sensor Networksと新規にWearable Deviceに関するテーマを取り込んで、IoTにかかわる規格を広く開発していくことになりました。幹事国は韓国、議長はカナダが務めます。
このようなシステム標準が対象となってくると、問題となるのが標準化団体間での競合です。前出のSmart Citiesは、IECでも、ISOでも取り上げられており、JTC 1でWG 10が設立される際にも、切り分けと連携が議論されました。IECはその問題に配慮したのか、SyCの名前にElectrotechnical aspects ofを付けて、自分の領分だけをやると宣言しています。IoTやSmart Manufacturingも複数の団体で取り組まれています。デジュールであるISO, IEC, ITU以外にも民間が中心に進めるフォーラム団体もあり、エフォートが分散されてしまうことが危惧されます。システム標準は、今後、大変重要な取り組みになりますが、標準化活動に割ける人材は、民間企業、大学、研究機関等、いずれも十分とはいえない状況であるため、せめて日本の中では、対応する国内委員会が連携して活動し、エフォートを効率化したいと考えています。
本学会の会員の方々にも、ぜひ、標準化に関心を持っていただき、活動に参加していただけますよう、お願いいたします。