「情報処理学会論文誌の今とこれから」
乾 健太郎(論文誌担当理事)
論文誌担当理事の大役を仰せつかって早1年半が経ちました。諸先輩方が育ててこられた情報処理学会論文誌の舞台裏に身を置き、種々勉強させていただく中で、ようやくその全体像と課題が実感を伴って見えるようになってきた気がします。この場をお借りして、論文誌の近況をお伝えしたいと思います。
情報処理学会論文誌はジャーナル、Journal of Information Processing(JIP)、トランザクションからなる複合体です。全体で年間1,000編を優に超える投稿があり、採録数は500編前後にのぼります。ジャーナル/JIPでは年間十数本の特集号が企画され、1998年に創設されたトランザクションもこの2年で「デジタルコンテンツ」「教育とコンピュータ」が新たに加わり、10誌を数えるまでになりました。年間4回発行してきたJIPは年間85編まで採録が増え、2015年1月から隔月発行に移行します。
言うまでもなく、こうした編集活動は多くの方々の献身的なご協力のもとに成り立っています。ジャーナル/JIPの編集委員会は特集号の編集委員を合わせると200名を超え、さらにトランザクション10誌の編集委員会も合わせると、全体で500名を超える規模です。加えて、論文1編に担当編集委員(メタ査読者)1名と査読者2名が付きますから、査読の規模は年間延べ3,000件以上になります。本論文誌の編集に多大なご協力をいただいている方々に深く感謝いたします。
本会論文誌は現在、こうした規模とクオリティに支えられて、Google Scholarの「h5指標」で「日本語の出版物」1位にランキングされています。しかし、この10年の投稿数の推移を見ますと、残念ながら漸減傾向にあることがわかります。一方、研究会の方の発表件数は増加傾向にあるとのことですので、研究会に集まった萌芽的研究をジャーナル論文に仕上げていくプロセスのお手伝いが学会として十分にできていないということかもしれません。海外の有力誌に負けない魅力を育てていくことも必要です。改善すべき点はいくつもあります。
こうした中、新しい取り組みも進めています。1つは特選論文の新設です。従来の論文賞は採録論文の約2%、選考は年に一度で、掲載から表彰まで最大1年のラグがありました。そこで、良い論文があればもっとタイムリーに表彰し、フレッシュなうちに多くの読者に届けることを目的として、特選論文表彰制度が昨年からスタートしています。各月の採録論文の中から1割を上限に優秀な論文を特選論文として表彰するもので、過去1年間に合計26編が表彰されています。この賞は他の賞とは独立に選考し、他の受賞を妨げるものではありません。特選論文が論文賞を受賞することも可能です。
審査期間を短縮する試みも始めています。現在、論文投稿から最初の結果通知まで平均で約90日かかっています。これは決して悪い数字ではありませんが、どこかに遅延が生じて投稿者をやきもきさせるケースもないわけではありません。複雑な審査プロセスのどこにどれくらい日数がかかっているかの統計を原因とともに精査し、審査のクオリティを確保しながら制度上の無駄を省く、また遅延に迅速に対応できる仕組みを作るといった取り組みを進めています。今後はそうした統計も積極的に公開し、より安心して投稿できる論文誌にしていきたいと考えています。クイックアクセプト/リジェクト、エクスプレス査読など、思い切った制度の導入も検討すべきかもしれません。
また、それと同時に、査読の労を労う制度を拡充することも大切です。現在、査読に関連する表彰は学会活動貢献賞の年間3名のみですが、査読者数・査読件数の規模を考えるともう少し何かあっても良いように感じます。査読・編集の労を会員同士が認知し感謝し合えるような、情報処理学会ならではの仕組みをつくることが次の課題です。
海外への発信力の強化も大きな課題として残っています。インパクトファクタについては、トランザクションのCVAがこの夏、他に先駆けて取得申請をしました。JIPでは投稿料の免除や掲載論文のオープンアクセス化を継続して実施しています。また、英語論文の執筆支援の一環として、研究会や支部からの推薦論文の英語化を重点的にサポートする制度を今年度中に開始する予定です。
論文誌は、研究の仕上げを発表する大切な場、会員全員の共通の財産です。会員全員で育てていくことが重要です。今後とも本会論文誌への積極的なご支援、ご投稿をよろしくお願いいたします。