2016年07月04日版:稲村 浩(総務担当理事)

  • 2016年07月04日版

    「TK-80あるある

    稲村 浩(総務担当理事)

     先日自室を整理していて、積読になっていた「復活! TK-80」という本を改めて読んで思ったことを書きたい。

     TK-80は子供のころに所有していて、テンキーとLEDでできるゲームを打ち込んでは友人と遊び倒した記憶がある。ラジオ製作少年だった中学1年のころ、近所の部品屋さんがマイコンというものを扱い始めた。ガラスケースに飾られていたあのTK-80の、IC部品を綺麗に見せたパッケージを眺めているうちに、そのころもう作るものがなくなっていたハンダ付けマニアには結構な挑戦に思えて、その好奇心から10万円弱の金額であったが親を拝み倒して購入してしまった。NECが76年に発売したTK-80はCPUやメモリをハンダ付けして組み立てるマイコンキットで、クロック2MHzの8bit CPUに512バイトのRAMがついている。当時、SRAという会社のプログラマの人たちがこの小さなTK-80で動く面白いゲームを書いて集めた本「マイコンゲーム21」が発売になっていて、私はさっそくこの本を買って16進コードを打ち込んで遊んでいたのだった。

     「復活! TK-80」には、この全TK-80ユーザ必携の「マイコンゲーム21」のゲームもいくつか収録されている。当時、これらのゲームのアセンブラソースを眺めていて謎の定数365Aで計算される乱数ルーチンの意味が判らず図書館に出かけて乗算合同法という手法を調べたことを思い出した。TK-80では大したプログラムを書いたわけではないが、それでもプログラミングに興味を持つ大きなきっかけになり、高校では電卓ゲームで遊んでいた友人とコンピュータ部を立ち上げ、大学ではコンピュータ「も」研究するサークルに入り、プログラマのアルバイトで稼いで中古車を買い、NTTに就職して横須賀通信研究所に配属になった。「復活! TK-80」によると実はTK-80は当時のNTT横須賀通研の新人教育用に企画されたキットを元にしたものだとある。ん、何だって!?

     言ってみれば、私は知らないうちに通研の新人向け教材を、なけなしのお年玉貯金をはたいた自費で買って、中学生のころから10年以上も自習して来たようなものだ。これを新人教育というなら、私はすっかり教育された新人だったことになる。同書によるとNTT横須賀通研に納入されたキットの台数はそれほど多くはなかったようだが、このような恵まれた教材で新人教育を受けられたNTTの先輩方を実に羨ましく思った。そしてそんな事実を、長いこと自分の部屋に並んでいた本で、その会社を辞めるころに知ることになった巡り合わせに驚いた。

     この春から大学に移った。願わくば学生諸君の一生続くような好奇心を刺激できればと思う。本会では就職後の若手の会員の離脱が大きな課題である。学生から職業人になるにつれて周囲から求められるものは変化するだろうがその人が持つ好奇心は変わらないと思う。そのような持続する好奇心に応える学会でありたい。

    注)TK-80は情報処理学会が認定する情報処理技術遺産のひとつである(2010年認定)。
      TK-80:http://museum.ipsj.or.jp/heritage/TK-80.html