2020年09月07日版:本田 新九郎(企画担当理事)

  • 2020年09月07日版

    「「会いたい」と思うこと
    本田 新九郎(企画担当理事)

     かつて、東日本大震災によって多くのものが奪われました。また昨今の自然災害によっても、多くのものが奪われています。そのたびに人々は復興を目指し、奪われたものを復旧、回復させてきました。

     今回の新型コロナウイルスは、人々から「会う」ことを奪いました。たったそれだけのことが奪われただけで、ここまで社会がダメージを受けてしまう状況を目の当たりにし、人々が「会う」ことに多く依存していたことに気づかされます。いま私たちは、これまで当たり前にできていた「人と会う」ことが自由にできません。職場に新しいメンバーが来ても歓迎会もできず、お世話になった方の送別会もせず、さまざまな会合は、できる限りウェブ会議で実施しなければなりません。この状況に、ただ慣れれば済む話なのでしょうか。在宅勤務では、自宅の椅子に座ったままでさまざまな会議に参加し、打合せ以外でも電話やメール、SNSでのやりとりで業務が進んでいきます。お昼休みにランチのために食堂へ行くといった行動もないので、うっかり冷蔵庫に何も入ってない場合は、まともにランチを食べずに次の打合せといった状況です。まったく移動せずにさまざまな打合せをこなせるし、さまざまなツールを使いこなせば非常に効率的に業務が進むように思えます。が、果たして本当に効率的で、より価値を生み出せる業務形態なのでしょうか。

     かつては、オフィスに居ると、会議室と自席の移動中や、エレベーターホールで出会った同僚との雑談から新しい情報を入手したり、部下が近くで電話している声を聞き、その声のおかげで思い出した案件について気になっていた点を簡単に確認したり、さまざまな想定外の情報交換ができていました。新しいアイディアや、新しいコラボレーションなどは、ひょんなところから生まれることが多いと思います。在宅勤務では、ミーティングが多い業務を担当している人は、人と話す機会はありますが、そうでない人は人と接する機会が減り、その分、想定外の情報交換の機会も減ります。人の存在を感じないまま一日過ごすと、精神的にきつくなってくることもあるでしょう。また移動がないと体を動かす時間が減り、健康面の心配も出てきます。

     人とのコミュニケーションにおいて、ノンバーバル情報が大切だといわれています。20年ほど前、私は超高臨場感通信によって、いかにノンバーバル情報も含めて「場」のすべての情報を伝達し、質の高いコミュニケーションを実現できるかという課題に取り組んでいました。しかし、現在の状況を見てみると、私たちはいまだに「私の声、聞こえますか~」から会議を始めている状態です。一方、いまのデジタルネイティブ世代のコミュニケーションを見ていると、さまざまなツールを必要に応じて使い分けて、人とのつながりを作り、存在を感じ、気持ちを伝え合っているように思えます。コミュニケーションに必要なテクノロジーの力点が、私が過去に考えていたところとは違った未来が来ていると感じているところです。各世代で、与えられてきたコミュニケーションの方法が異なり、私たちはそれをうまく使いこなしてお互いの存在、状態、感情等を伝え合ってきました。ニューノーマルといわれるこれからの世の中で、若い世代やアーリーアダプターたちのコミュニケーションのスタイルを参考にしながら、さまざまなテクノロジー、ツールを駆使し、コロナ以前には当たり前にできていたことを当たり前にできる世界の実現を目指していきたいと思います。

     最後になりますが、私はクールビズという言葉が好きではありません。軽装で仕事できるのは有難いのですが、省エネの実現に対して根性で乗り切りましょうというメッセージに聞こえてしまうからです。私は、理想的には省エネは技術革新で実現していくものだと思いますが、特に日本人はとても我慢強いので、根性で頑張って成果を出してしまうので、そのことによって技術革新が妨げてられてしまっているのではないかと思っています。今回の新型コロナウイルスへの対応については、自粛という「根性」は、もう限界に来ています。どんな技術で貢献できるのか、どんな創意工夫を提案できるのか、そのために何ができるのか、世代を超えて英知を結集して乗り越えていければと願っています。浪漫飛行へ、in the sky!