「学会運営における企画業務と目標管理」
阿野 茂浩(企画担当理事)
情報処理学会の企画担当理事を拝命して、1年が過ぎました。学会運営における「企画」というと、非常に漠然としたイメージをお持ちになる方もいらっしゃるかと思います。しかしながら、そのミッションは明確に規定されております。具体的には、理事会の決議により設置された関連委員会と、理事会への提言を行う外部委員会での活動となります。前者は、企画政策委員会と政策提言委員会であり、後者はアドバイザリーボードと呼ばれています。
企画政策委員会では、主に昨今の会員数の減少に対する種々の施策の立案、ならびに、その実現に向けた進捗状況の確認や施策開始後の検証に関する議論が行われています。中長期の計画、総会・役員検討会での企画案や監事付帯意見対応についても、関連する他の担当理事と連携して、検討が進められております。
また、政策提言委員会では、情報処理技術に関連する各省庁からのパブリックコメントの対応による、会員数約2万人を擁する学会としての政策への提言、これらの活動をバックアップするために、各関連省庁との意見交換会の開催に関する議論が行われています。このほか、関係する各種学術団体に対して情報処理学会の意向を反映する活動も行います。また、逆に情報処理学会内の「若手研究者の会」等での学会運営に関する各種取り組みの検討も重要な議題です。
一方、アドバイザリーボードについては、情報処理学会の監事付帯意見の対応と同様、産学公の有識者から構成される外部委員への学会活動の報告とともに、その進め方に関する評価や今後の提言をいただく場として、年に1回行われている活動です。そこでいただいた提言は、理事会で改善策として議論され、改善策の取り組み結果は、次年度のアドバイザリーボードや学会の年次総会でも報告されます。
上述の各委員会における個々の検討内容の詳細説明については割愛いたしますが、これらの活動を推進するためには、学会を取り巻く各種課題の「状況分析」、その分析結果に基づく対策の「立案」、その立案計画の「実行」という各プロセスを適切に遂行し、円滑にバトンタッチできるよう、三位一体の運用が求められます。これは正に、すでに多くの企業や団体で導入が進んでいる目標管理シートの内容を想起させます。すでに、目標管理シートによる個人のミッション明確化による業務効率化は、昨今では営利やコスト削減を追求する企業・団体にとどまらず、種々の組織で、その継続的な業績アップの手段として用いられています。昨今では、本年正月の箱根駅伝(第91回東京箱根間往復大学駅伝)で総合優勝に導いた青山学院大学の原 晋監督の各選手に課した目標管理シートの活用について、各種メディアでお聞きになった方も多いかと思います。目標管理シートには、各選手が目指すタイム等の具体的数値目標が記され、チームで共有されたということです。
学会活動でも、たとえば、会員数の減少の歯止めや会員増の施策に目標管理シートの概念を活用することはできるかと思います。数値目標も明確に記すことが可能です。一方、学会は事務局側で専担として対応されている方々以外は、企業や大学等に所属している会員のボランティアで運営されており、目標管理の継続性が大きな課題となります。特に、会員増の施策等については、月次や年次単位での増減チェックも必要ですが、5〜10年単位の長期的観点で立案していく必要性があります。実際、先の青山学院大学の原監督のケースでも、就任11年目にして箱根駅伝の総合優勝を勝ち取っていますが、30年近く箱根駅伝に出場できないチームを優勝が狙える強豪校に育てるためには、就任当初から10年計画であったそうです。
学会における理事や委員等の役職については、大学の駅伝選手よりも通常は短いサイクルで後任へと引き継がれます。その意味においては、学会の長期ビジョンに基づき設定された目標管理シートに相当するものを、駅伝チームに相当する理事会や各担当委員会で常に共有することは、非常に重要であり、継続的な発展の礎となります。各委員会は基本的に月例で開催されており、その情報共有の場として機能しております。
最後となりますが、学会の各種企画は最終的には会員にそのメリットを享受してもらうことが目的です。目標管理シートの狙いも、その組織全体の業績向上だけでなく、そこに属する個々のメンバの達成感や能力開発、今後の業務に取り組むモチベーション獲得も重要な要素として謳われています。組織が大きくなると、ともすれば保守的になり組織防衛に働く傾向がありますが、長期的には会員のメリットにならない縮小均衡のスパイラルに陥ってしまいます。情報処理学会は、長期ビジョンに基づき目標設定を行い、これからもますます果敢に新しい取り組みを進めていきます。これらの取り組みの積み重ねにより、会員のプロフェッショナルとしての能力向上や情報処理分野におけるモチベーションの向上に資する、魅力ある学会となり得ると考えております。