「2020年代に向けた情報通信政策の在り方-世界最高レベルの情報通信基盤の更なる普及・発展に向けて-」答申(案)に対する意見


2014年11月18日
一般社団法人 情報処理学会
会 長  喜連川 優

以下のとおり,2014年11月18日付で意見書を提出しましたので,ご報告いたします.
(協力:マルチメディア通信と分散処理(DPS)研究会,デジタルドキュメント(DD)研究会,モバイルコンピューティングとユビキタス通信(MBL)研究会,コンピュータセキュリティ(CSEC)研究会,高度交通システムとスマートコミュニティ(ITS)研究会,ユビキタスコンピューティングシステム(UBI)研究会,インターネットと運用技術(IOT)研究会)


2014年11月18日
総務省総合通信基盤局
電気通信事業部事業政策課 御中
一般社団法人 情報処理学会
会長 喜連川 優

 本答申が示す2020年代の情報通信政策の在り方は、経済活性化と国民生活の向上を意図するとともに、訪日外国人へのアピールも考慮した情報通信の目指すべき姿とICT基盤政策を示しており、全体として評価できる。

 一方で、本答申は通信基盤に関する言及が多くを占めており、通信基盤を通じてやり取りされる情報の様相や利活用の方法、情報管理のあり方などの視点が欠けている。世界最高水準のICT環境を実現するという観点からは、ネットワーク整備等のICT基盤にとどまらず、デジタルサイネージやキオスク端末の普及等、高い水準を象徴する先端的なICT応用やサービスに関する目標設定と政策を期待する。

 また、安全・安心なICT環境提供の観点からは、災害対策、ユニバーサルアクセスについて深く検討する必要がある。大学や地方自治体を接続する固定ネットワークやWi-Fi系も含めた商用・非商用ネットワークのローミング推進、Wi-Fiの屋外での利用制限の緩和等の関連法制度の整備を要望する。但し、災害時以外には認証および利用記録の保存を義務付けるべきである。特に、2020年パラリンピックに向けて、高齢者だけでなく、障がいを持つ人が住みやすい環境の検討が重要であり、ICT基盤における環境性能や省エネに関しても言及すべきである。

 安全・安心なICT環境提供の観点からは、上記に加えて、悪意のある攻撃者が攻撃できない、また、攻撃されたとしても利用者のプライバシーも含めた情報を保護する技術、不正な情報の流布による社会システムの混乱を抑制する技術の実現も不可欠である。特に現在は、ネットワークが車等ともリンクする時代に突入しており、サイバー攻撃によって人命も損なわれ得るため、安心・安全の確保は益々重要である。また、今後重要性が増すヘルスケア向けの情報利活用においては、個人の健康に関わる情報がサーバで一括管理される際に、その安全性を確保するのは当然であるが、管理されるべき情報は、活動量などのライフスタイル情報だけでなく、病院の電子カルテ、さらには究極の個人情報であるゲノム情報なども対象となることが予想され、これらの統合的な情報管理について具体的な検討が必要である。

 上記の利便性および安全性は常にトレードオフの関係にあるが、ICTにおけるセキュリティ確保には一層の投資、ならびに施策推進が必要である。利便性の重要性については疑う余地はないが、安全性を確保するためにも、事業者側が過当競争に陥って疲弊してしまうようなことは避けるべきである。既存の技術を新しい技術でリプレイスしていくだけでなく、低コストで長く利用できるシステムの検討も効果的であると思われる。

 さらに、これまで述べてきたような、世界最高水準のICT社会の実現のために世界最高レベルの通信ネットワークの整備と研究開発に携わる人材確保・育成政策の充実を要望する。特に、少子高齢化による若手人口の減少に伴い、安全・安心なICT環境を設計・構築・維持できる人材の確保がますます重要になってきている。人材育成政策に加え、人材の継続的かつ安定的な確保も必要である。

 最後に、5.3.2(4)「言葉の壁」をなくす「グローバルコミュニケーション計画」の推進について、資料では、大きな方針として「自動翻訳の向上により解決できる」と仮定されているが、以下2つの課題についてコメントする。
 
a) 災害情報の翻訳について
今年の集中豪雨災害で明らかになったように、仮に気象観測などがIT化されていても、それを分析して明示的な避難情報を日本語で発する体制がなく、したがって翻訳すべき情報自体がない、という状況も少なくない。これは広報によって余計な混乱を招かないか、という判断に関わる行政の問題を含んでおり、自動翻訳や広い意味でのIT技術で解決することはできない。この状況をIT技術により改善するとすれば、観測機器のデータをオープン化し、それをユーザ側で分析して判断することになるだろう。従って、気象・地理関係のデータのオープン化、ならびに、そのデータをモバイル端末でも処理可能な、JSONなどのようなよく標準化されたフォーマットで配布することが望ましい。

b) 自動翻訳の限界について
参考資料91では自動翻訳の適用状況を飲食店、観光やタクシーといった、既に定型化に足るデータが収集できている状況を考えているが、上記本文では医療分野のような、誤訳が文字通り致命的な影響を与える恐れがあるものも含まれている。近年の研究では自動翻訳の限界を認め、simplified Japaneseという「自動翻訳しても意味が崩れない日本語」でマスタデータを作るという考え方がある。医療分野にも外国語の導入を考えるのであれば、そのような「曖昧さのない日本語」への切り替えを考えていくことが、より実現性の高い方針と思われる。
 
以上

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