「新たな社会像と取り組むべきICTに関する課題に対する意見募集」に対する意見

2013年12月25日
一般社団法人 情報処理学会
会 長  喜連川 優

以下のとおり、2013年12月25日付で意見書を提出しましたので、ご報告いたします。

2013年12月25日
内 閣 府
政策統括官(科学技術政策・イノベーション担当)
共通基盤G 御中
一般社団法人 情報処理学会
会長 喜連川 優

「新たな社会像と取り組むべきICTに関する課題に対する意見募集」に関し、下記のとおり意見を提出しますので、何卒宜しくご査収ください。


1.新たな社会像とその背景
スマートフォンやインターネットの日々の使用に垣間見られるように,情報処理技術が人間生活の隅々にまで入り込み,情報処理技術を基盤としての生活様式が構成され,文字の発明が新しい文化体系を形成したように,情報処理技術を基盤としての新しい文化が花開き,人間生活の方向や価値に多大な影響を与えるようになると思われる.すなわち情報処理技術は,単に理工学の一分野として技術の発展のみで語ることはできず,生活様式をも取り込んだ形での展開様式で議論をする分野となってゆくと思われる.人間社会と情報処理技術の関わりあいの切り口として,人智高資源,活力高生産,安心安全快適,持続可能性などが考えられる.

2.前述した新たな社会像の実現に向けて取り組むべきICTに関する課題
今後取り組むべき必要があるICT技術として,次の3つを提案する.
 
(1)アーカイブに基づく新しい学問体系(サイバーヒューマニティ)の確立
高精度・高速のデジタル化技術,光学計測技術の発達,大量データの蓄積・検索・転送技術,超臨場感表現技術の発達により,様々な文化資源や日常体験の電子アーカイブ化が行われ,人智の再構成が進み,効率的に臨場感ある体験ができ,5感で感じる世界遺産のe-ヘリテージや過去の成功失敗の体験,歴史的イベントなどが臨場感をもって学習できることになる.このアーカイブを基本データベースとする新しい学問体系「サイバーヒューマニティ」を確立する必要がある.

(2)介護支援エージェント
エージェントは自律的に判断し行動する主体であり,環境知覚,自然言語対話,さらにジェスチャー理解が可能である.日本はこれから超高齢化社会へ突入するが,そこで必要となるのが高齢者の健康状態を管理することで介護支援を行うシステムである.健康状態の管理には,各種生理データの計測と分析,状態の把握,そして,それに基づいたアドバイスの提供などが必要である.超高齢化社会においては,それらのすべてが自動化されたトータルなシステムである介護支援エージェントが求められることになり,エージェント技術の研究・開発は,それに大きく貢献すると考える.

(3)プライバシー保護データマイニング
共通番号制度と認証技術の発達により,大規模で安全な個人認証が可能になる一方,個人情報やサイバー社会での行動が常時観測されて,ビッグデータとして相互連携して情報推薦やパーソナライズされたきめ細かなサービスに活用されていくようになる.しかし,個人の行動が観測されていてはプライバシーの面で課題が残る.2020年ごろまでには,データの交換やノイズを混入するなどの匿名化技術が先行して利用されるが,誤差が生じてデータの有用性が不十分である.そこで,公開鍵暗号技術を用いて,それぞれの組織の有するビッグデータを秘匿したままで各種のマイニングを実現するプライバシー保護データマイニング技術が必要になる.現状は暗号化に大きな計算コストがかかるが,今後の暗号技術の発達とそれらを考慮した新たな解析アルゴリズムにより克服できると考えられる.ノイズの影響のない正確で安全な解析技術により,保護されたままでもビッグデータ技術を活用したサービスを受理し,安心安全社会に大きく貢献すると考える.

3.その他(課題の解決に向けた問題意識、有用な情報提供等)
  • 情報処理学会では,2030年の長期ビジョンとその実現に向けて取り組むべき課題の候補を「夢ロードマップ」として学会内で広く議論している.そこでは,上記に挙げた3件を含めて以下のような課題が挙がっている;
    (1) テーラーメイドプロダクションの実現
    (2) アーカイブに基づく新しい学問体系(サイバーヒューマニティ)の確立 ⇒ 提案課題(1)
    (3) 五感ミュージアム・現実非現実感体験
    (4) 心地よさ・楽しさ・脳のセンシング
    (5) 身代わりロボット・故人の再現
    (6) 健康記録,医療記録を自己管理PHRの実現
    (7) 介護支援エージェント ⇒ 提案課題(2)
    (8) 無人自動運転
    (9) 不正アクセスの完全防止・スパム撲滅
    (10) プライバシー保護データマイニング ⇒ 提案意見(3)
    (11) エージェント行政サービス
    (12) すべての社会活動がアプリとして見える社会OS

  • 上記のようなICTの諸課題に取り組んでゆく情報技術者は,高度な能力を有するプロフェッショナルであることが望まれる.現在情報分野には様々な資格制度が存在するが,それらが保証する能力の相互関係は明確ではない.資格制度が保証する能力を明らかにすることで,情報技術者に目標を示し刺激を与えることができる.また,有資格者による情報系プロフェッショナルコミュニティの形成により,CPD(継続研鑽)を通じた自律的な質の向上や社会貢献活動を推進し,情報技術を基盤とする様々な社会制度のグランドデザインを推進する場を特定の省庁や業界団体等に依存しない形で構築できる.
    情報処理学会では,上記のビジョンの実現に向けて2013年6月に高度IT資格制度を提案した(プレスリリース:http://www.ipsj.or.jp/topics/ITshikaku.html).
    本制度は,情報分野の様々な資格制度がISO/IEC 24773(ソフトウェア・システム技術者認証)に準拠できるようなサービスの提供を通じて資格制度が保証する能力を明確化すると同時に,様々な資格制度間の相互連携を推進することも目的としている.本件に関する詳しい説明資料等も準備している.
以上

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