経済産業省 産業構造審議会「人材育成WG報告書中間とりまとめ(案)」に対する意見

産業構造審議会「人材育成WG報告書中間とりまとめ(案)」(http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=595212025&Mode=0)」に関するパブリックコメントの募集について,情報処理学会より2012年8月17日付けで以下の意見を提出いたしましたのでご報告いたします.

会長 古川一夫


以下のように意見を表明します.

2012年8月17日
一般社団法人情報処理学会

【意見1】
(1)該当箇所
 全体に対する意見

(2)意見内容
 「次世代高度IT人材」「現在の高度IT人材」という分類は適切でない。別の言い方をすると、「次世代高度IT人材」イコール「事業創造系人材」と定義するのではなく、「次世代高度IT人材」とは「現在の高度IT人材」および「事業創造系人材」と定義すべきである。

(3)理由
 次の世代においては、「現在の高度IT人材」に加えて、「事業創造系」の人材の育成が必要であることに異論はないが、同時に、「現在の高度IT人材」が依然として我が国のIT産業を支える人材として重要な役割を果たすからである。
 とりまとめ(案)p.20の図「次世代高度IT人材像と共通キャリア・スキルフレームワークとの対応」に示された人材類型の中で、「基本戦略系」「ソリューション系」「クリエーション系」の人材は次の世代においても重要な存在であり、「事業創造系」の人材だけが次の世代のIT産業を支えるわけではない。
 したがって、「事業創造系」「基本戦略系」「ソリューション系」および「クリエーション系」の人材のすべてを「次世代高度IT人材」とするのが適切である。
また、p.18「育成のための教育の対象となる知識項目」、p.22「次世代高度IT人材の育成のための7つの指針」に書かれた内容の多くは、「現在の高度IT人材」に対してもあてはまるので、「事業創造系人材」のみを対象とするのは適当でない。


【意見2】
(1)該当箇所
 第1部 「3.次世代高度IT人材とスキル標準等で定義されているIT人材との関係」に対する意見

(2)意見内容
 新しく定義される「事業創造系人材」と、現在のCCSFに定義されている人材像との違いを明確にする必要がある。

(3)理由
 新しく定義される「事業創造系人材」と現在のCCSFに定義されている人材像には類似のものがあり、違いがわかりにくい。
 例えば、「クリエーション系人材」の「クリエータ」は「新たな要素技術の創造等により社会・経済にイノベーションをもたらす」人材と定義されている。また、「基本戦略系人材」の「マーケット・ストラテジスト」は「企業、事業、製品及びサービス市場の動向を分析・予測し、事業戦略、販売戦略等のビジネス戦略を企画立案すると共に、それを企業の経営方針と照らし合わせ、課題解決のためのソリューションを提案する」人材と定義されている。
 これらの人材と「事業創造系人材」との違いは必ずしも明確でない。本質的にどこが異なるのかを明確にすべきである。


【意見3】
(1)該当箇所
 第1部3項 「(5)評価軸の必要性」に対する意見

(2)意見内容
 次世代高度IT人材の評価のための制度設計に当たっては、国際的整合性を考慮すべきである。

(3)理由
 IT分野は他の産業分野にもましてグローバル化が進んでおり、人材の国際的流動も今後いっそう進むことが予想されるため、高度IT人材の評価の仕組みは、国内での通用のみならず、国際的にも通用するものとする必要がある。評価の結果としての資格は、資格の相互承認を図る国際的な動き(IFIP IP3等)にも対応していく必要がある。そのためには、評価の仕組みそのものが国際標準と整合する形で構築される必要がある。


【意見4】
(1)該当箇所
 第1部3項 「(5)評価軸の必要性」に対する意見

(2)意見内容
 次世代高度IT人材の能力を評価する基準は、客観的に判定できるものとすべきである。

(3)理由
 次世代高度IT人材に必要な経営的な能力やイノベーションを起こす能力を的確に評価することは必ずしも容易でないが、評価の信頼性を担保するためには、客観的な判定が可能な評価基準が必要である。


【意見5】
(1)該当箇所
 第2部 「情報セキュリティ人材」に対する意見

(2)意見内容
  ①情報セキュリティ技術の突出した人材として、「研究開発人材の育成」(p.25、 図)が含まれているがその育成のための具体的な方策が不足している。

(3)理由
 若年層の人材育成の為にセキュリティキャンプなどの有効性が提案されているが、グローバルに活躍する中堅の研究者を育成するためには人材を見出すだけでなく、大学院教育などの継続的な教育などが必要である。第3部でいくつかの大学院での試みが紹介されているが、企業で行う職務上のスキルを磨くものであり、研究所や大学院でプロパーに新規技術を創造する為のものが不足している。


【意見6】
(1)該当箇所
 第2部 「情報セキュリティ人材」に対する意見

(2)意見内容
 セキュリティ分野は高度に専門的な知識を必要とするため、企業での採用枠も狭く限られている。他のIT技術の育成の様に多量の技術者を採用して、企業で再教育することも困難である。大学や専門学校でセキュリティ技術に関する知識を学んだ人材を、シームレスに企業で活用する為の方策が必要である。

(3)理由
 ③システム企画・設計・構築・適用・更新・運用に活躍する人材と、④一般人としてのセキュリティの基礎スキルとの間にギャップがある。大学などでセキュリティ教育に力を入れているところがあるが、受け入れる企業側の活躍の場が限られている。


【意見7】
(1)該当箇所
 第2部 「情報セキュリティ人材」に対する意見

(2)意見内容
 セキュリティキャンプやCTFなどはオペレーティングシステムやネットワークに関する情報セキュリティ人材の育成には有効だが、暗号解析技術、現代暗号理論や基礎プロトコルに関する要素技術の研究開発を行う人材育成が必要である。

(3)理由
 例えばサイドチャネル攻撃対策などは全ての製品開発に関わるセキュリティ知識であり、そのような要素技術に関する技術開発を行う視点が欠けている。暗号理論そのものも技術開発が活発であり、例えば、本学会では,連続セミナーとして「情報セキュリティ2.0 -自由と統制の時代の情報セキュリティ」を過去に開催している。多方面に適用可能なセキュリティ人材を育成するためには、基礎理論分野の充実も是非検討が必要と考える。


【意見8】 
(1)該当箇所
 第2部 「情報セキュリティ人材」に対する意見

(2)意見内容
「情報セキュリティ技術の突出した人材」も大切であるが、より、一層、「システム企画・設計・構築・適用・更新・運用に活躍する人材-ア.情報セキュリティの能力/スキル・知識が業務の中で必要である技術者」の継続的な育成に力をいれるべき。

(3)理由
情報/制御セキュリティは、適切な技術と適切な運用によって確保される。標的型攻撃のアプローチから判るとおり、弱いところがあれば、その弱さを踏み台として、次のサイバー攻撃へと展開されている。すなわち、標的型攻撃は、ひとつの組織の問題ではなく、関連するすべての組織の問題となっている。この問題解決には、弱いところを補い続けるための適切な技術と適切な運用を実現する必要があり、情報セキュリティの能力/スキル・知識が業務の中で必要である技術者の育成は必要不可欠である。
従って、情報セキュリティの能力/スキル・知識が業務の中で必要である技術者の育成では、すべての情報システムの技術者は、そのレベルに応じた、情報セキュリティの能力/スキル・知識を有するべきと考える。


【意見9】
(1)該当箇所
 第3部 「2.若手層の育成」に対する意見

(2)意見内容
 今後の高度IT人材育成の一部として、認定されたIT専門の学部教育の卒業生が高度IT人材へ進むキャリアパスを明示すべきである。

(3)理由
 IT分野が社会のあらゆる場面に広がっていることから、IT産業分野があらゆる専門分野からの人材を受け入れてきているのは事実であるが、IT専門の学部学科卒業生がIT産業分野へ入り高度IT人材に至るキャリアパスを明確に位置づけない限り、真の意味での産学連携も十全には機能し得ない。送り出す側も「卒業生が必ずしもIT産業分野に進むわけでないし・・・」と思い、受け入れる側も「IT専門の学部学科でなくとも他から採用はできるのだし・・・」と思っている限り、ともに産学連携において他人事の対応に終始することになるからである。国際的な動向で見ても、高度IT人材に至るIT人材資格制度は、教育認定を受けたIT専門の学部学科卒業からのパスを柱の一つに据えている。我が国においても、高度IT人材に至るキャリアパスの出発点として教育認定を受けたIT専門の学部学科卒業を柱の一つに位置づけることが望ましい。


【意見10】
(1)該当箇所
 第4部 「現在の高度IT人材のスキルを評価する仕組みの検討」に対する意見

(2)意見内容
 高度IT人材を正しく活用するために、その知識・能力・スキルを評価し、可視化する仕組みが不可欠である。この仕組みにおける知識・能力・スキルの評価基準は、国内で統一したものとすべきである。このような観点(および以降の意見11,12,13の観点)から、情報処理学会では高度IT資格制度の試案を作成しており、今年度 試案を公開するとともに、運用方式の具体化のため試行を計画している。 

(3)理由
 これまで、ITSSなどのスキル標準では、経済産業省やIPAは評価のガイドラインを提示しているだけで、実際の評価は各企業に任せている。スキル標準のレベル3まで(およびレベル4の一部)は情報処理技術者試験によって統一的評価が可能であるが、それを超えるレベルに対する評価は各企業がスキル標準に即する形ながら独自に行っていて、それら評価結果の同等性が担保されているわけではない。中間とりまとめ(案)p.42, 16行目にも、レベル5以上については、「共通する評価軸がなく、個社での評価となっている」と書かれている。これでは企業間でばらつきが出るため、人材の能力を評価する際に参照するには不都合である。レベル4以上の高度IT人材の評価に関して、学協会とも連携して統一的な仕組みの確立を急ぐ必要がある。特にレベル4は対象者が多く、また国際的に通用する高度IT資格の水準とも対応しているため、企業間のばらつきを是正する仕組みが不可欠である。


【意見11】
(1)該当箇所
 第4部 「現在の高度IT人材のスキルを評価する仕組みの検討」に対する意見

(2)意見内容
 グローバル化に対応するため、前記の仕組みは国際的に通用するもの(国際標準と整合性のあるもの)とすべきである。日本の国際的な地位を高めるためにも、国際動向に対応し、ゆくゆくはリードできるようなポジションを確保すべきである。

(3)理由
 前述の【意見3】に同じ。


【意見12】
(1)該当箇所
 第4部 「現在の高度IT人材のスキルを評価する仕組みの検討」に対する意見

(2)意見内容
 IT分野は技術革新の速度が速いため、前記の仕組みには継続的研鑽(CPD)の実施や資格の定期更新の仕組みを組み込むべきである。

(3)理由
 最新技術に対応するため、高度IT人材は研鑽を怠ってはならない。もとより、研鑽は技術者自身が自主的に行うべきものであるが、それを側面から支援し、可視化するための仕組み、すなわちCPDが必要である。また、高度IT人材の現在の能力を的確に評価するためには、スキル評価に更新制度を導入し、資格を更新する際にCPDの実施を確認する必要がある。これらはISO/IEC 24773(ソフトウェア工学-ソフトウェア工学専門家の認証-比較の枠組み)における要求事項でもある。


【意見13】
(1)該当箇所
 第4部 「現在の高度IT人材のスキルを評価する仕組みの検討」に対する意見

(2)意見内容
 高度IT人材の評価を「プロフェッショナルコミュニティ」に委ねる場合、評価の信頼性や客観性を担保するために、その評価がCCSFや3スキル標準の趣旨に照らして妥当であることを国が確認する仕組み(質保証システム)を構築する必要がある。

(3)理由
 既存の「プロフェッショナルコミュニティ」に加えて、今後いくつもの「プロフェッショナルコミュニティ」が作られる可能性があるが、それらに高度IT人材の評価を委ねる場合、コミュニティによって評価基準やその解釈が異なることが容易に想定される。各コミュニティが、それぞれ独自の方法によって高度IT人材の評価を行った場合、高度IT人材の能力を客観的に評価することができず、評価自体の信頼性が担保されない。CCSFや3スキル標準は経済産業省によって定められたものであるため、「プロフェッショナルコミュニティ」による評価の信頼性・妥当性を確認できるのは、経済産業省のみである。
 なお、同様の質保証システムの事例としては、文部科学省が実施している認証評価機関の認証が挙げられる。学校教育法により大学は定期的に認証評価を受ける必要がある。認証評価は民間の認証評価機関が実施するが、評価基準は大学設置基準等の法令に準拠して定めることになっており、認証評価の信頼性・妥当性を確保するために、認証評価機関は文部科学大臣の認証を受ける必要がある。

以上

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