領域制について

領域制について

領域制についての「情報処理」掲載記事のご紹介です。

・研究運営の領域制試行について 安西祐一郎(慶大) 「情報処理」Vol.36No.5 本会記事掲載
・『領域制』に期待する 浦野義頼(KDD研) 「情報処理」Vol.36No.12 巻頭言掲載 

研究会運営の領域制試行について

 安西 祐一郎(調査研究担当理事(平成5〜6年度)・慶大) 「情報処理」Vol.36 No.5 本会記事掲載

1.はじめに

  社会の情報化が急速に進展するなか、本学会は、情報処理分野の学術、技術に関わる専門分野から学際分野までの調査・研究・開発を着実に進め、発展させてい く指導的役割を担っている。また、情報処理に関する学術、技術は、今日ますます、大きな広がりと深さを求められており、これらに対する研究・開発を、国内 外と交流しつつ進め、その成果を発信していく必要がある。
一方、学会活動を支える本学会の収支状況は、連続セミナーを始めとする収入増加対策、学会誌のページ数縮小等の経費節減対策などを実施しても赤字予算の編成を余儀なくされる厳しい状況にある。
そこで、平成6年度理事会は、平成5年度に引き続いて、「学会活動活性化委員会」を設け、学会の現状を把握、再認識し、学会として果たしていくべき役割 を、社会・経済の構造変化の中で、どのように改革しつつ、実行していけるのかという視点を持って、検討、審議し報告をまとめた。この中で、調査研究分野の 領域制試行が、学会と会員にとっても重要な改革となるので、概要を報告し会員各位のご理解とご協力をお願いする。

2.調査研究分野での改革の背景と課題

 調査研究活動は最も基本的な学会活動 の一つであり、学会創設以来、様々な活動を行ってきた。現在では、情報処理分野における近年の研究・開発の急速な進展と分野自体の拡大にともない、電子計 算機の基礎分野から情報環境、先端的応用、社会との関わりまで含めて、24の研究会と3研究グループが活発な活動を行っている。また、情報処理教育カリ キュラムの調査活動も調査委員会と、文部省の委嘱研究委員会において活発に行われている。
しかし、これだけの活動が全国的に間断なく行われているにも関わらず、調査研究活動の財政的基盤は会費収入から約4%の補助金と、調査研究活動をとおし て情報処理学会の発展を夢見る熱心な約2千人の会員に支えられているのみであり、このままでは、我が国の先頭に立って情報処理分野の活動を先導・推進する べき本学会の活動全体が時代に立ち遅れる可能性が憂慮される事態となっている。
このような背景のもとでは、研究会、研究グループ、調査委員会の活動組織を、財政のあり方などを含めて自由度を増やし、研究会登録会員の自由と責任にお いて活動を活性化できるようにする組織改革を行うことが第一の課題である。また、新しい組織を試行しつつ、調査研究活動を推進しうる新しい活動方法を導入 していくことが第二の課題となる。

3.実施した対策

  上記第一の課題を達成するために、調査研究運営委員会は組織改革の方向を平成5年度に打ち出し、検討を開始した。これを受けて平成6年度は、24研究会お よび4研究グループを「コンピュータサイエンス」、「情報環境」、「フロンティア」の三つの領域に分け、各領域内でその領域に所属する研究会が関連性を もって研究活動を行う領域制を試行した。その結果、激しい討議はあったものの、各領域を中心とする組織のもとで、それぞれの領域に相当程度の財政的な権限 と責任を付与すれば、調査研究活動を自主的に決定し、アクティビティを高めていく活性化が推進できるというコンセンサスが得られた。
そこで、調査研究運営委員会はこの試行結果と意見を整理して、研究会、研究グループおよび調査委員会活動の活性化のために、調査研究に関する規程を全面 的に見直し、「調査研究に関する試行規程」を策定した。これは図-1および表-1に示したように、一つには、旧規程による調査研究運営委員会と同1号委員 会を発展的に解消し、委員長は研究会主査他の信任を受けること、各領域委員会の委員長と財務委員、委員長指名の委員、各調査委員会委員長および調査研究担 当理事により構成し、最終決議機関としたこと。二つには、研究会および研究グループを三つの領域に分けて、自分たちが所属する領域委員会を選べるようにし たこと。三つには、調査研究運営委員会から各領域委員会 に実質的な権限とこれに付随する責任を委譲し、領域委員会は領域内の研究会活動について実質的に決定でき、財務的にも財務委員を選び実行責任を持つように したこと。また、各領域委員会が山下記念研究賞を選定すること。四つには、研究会活動としてワークショップ、研究のためのデータベース構築等、新しい活動 が行えるようにしたことなどである。
なお、調査研究活動の対象として、旧規程は“情報処理に関する学術の調査等々”となっていたが、新試行規程では技術を加えて、“情報処理に関する学術、 技術の調査、普及、開発”としたほか、これに“将来ビジョンの策定と提言”を追加し調査研究活動の未来を探ることとした。

4.おわりに

 今回の改革は、研究会活動に参加している研究者、研究会を実質的に支え運営し ている主査、幹事、連絡委員にとっても、また、学会自身にとっても、従来の運営形態を思いきって変えた大変革であるので、慎重を期して平成7年度は試行規 程として1年間試行し、問題点を洗い出して、さらに洗練されたものとしていきたいと考えている。
おわりに、この改革は、特に改革の審議に参加された方々の活発な提言と決断があってこそ、まとまった重要課題でありここに深い感謝を申しあげる次第です。

図−1

  調査研究運営委員会
    | ◆委員長
    | ◇担当理事
    | ◇委員長指名委員
    | ◇各領域委員会委員長
    | ◇各領域委員会財務委員
    | ◇各調査委員会委員長
    |
    |--------------------------------------------
    |       |       |       |
  コンピュータ  情報環境   フロンティア  情報処理教育
  サイエンス   領域委員会  領域委員会   カリキュラム
  領域委員会                  調査委員会
  |   |
  |   |
 山下記念 |     ★各領域委員会の構成詳細は表−1参照
 研究賞選 |
 定委員会 |--------------
      |       |
     各研究会    各研究
      |      グループ
      |
      |---------------------------
      |       |       |
     各発表会  各連絡会  各シンポジウム等

表−1

■コンピュータサイエンス領域委員会
  • 委員長
  • 財務委員
  • 担当理事
  • 各研究会主査
    データベースシステム(DBS)
    ソフトウェア工学(SE)
    計算機アーキテクチャ(ARC)
    システムソフトウェアとオペレーティングシステム(OS)
    設計自動化(DA)
    ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)
    プログラミング(PRO)
    アルゴリズム(AL)
    数理モデル化と問題解決(MPS)
■情報環境領域委員会
  • 委員長
  • 財務委員
  • 担当理事
  • 各研究会・研究グループ主査
    マルチメディア通信と分散処理(DPS)
    ヒューマンインタフェース(HI)
    グラフィクスとCAD(CG)
    情報システムと社会環境(IS)(旧名称:情報システム)
    情報学基礎(FI)
    情報メディア(IM)
    オーディオビジュアル複合情報処理(AVM)
    グループウェア(GW)
    分散システム運用技術(DSM)
    デジタル・ドキュメント(DD)
    モーバイルコンピューティング(MBL)
    コンピュータセキュリティ(CSEC)*平成10年度新設
    システム評価(研究Gr)
■フロンティア領域委員会
  • 委員長
  • 財務委員
  • 担当理事
  • 各研究会主査
    自然言語処理(NL)
    知能と複雑系(ICS)
    コンピュータビジョンとイメージメディア(CVIM)
    コンピュータと教育(CE)
    人文科学とコンピュータ(CH)
    音楽情報科学(MUS)
    音声言語情報処理(SLP)
    電子化知的財産・社会基盤(EIP)*平成10年度新設

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『領域制』に期待する

 浦野 義頼(調査研究担当理事(平成6〜7年度)・KDD研究所) 「情報処理」Vol.36 No.12 巻頭言掲載

 21世紀を間近にして、社会・経済そして文化の各分野で様々な構造変化が進むなかで、情報処理学会を取り巻く環境も大きく変わろうとしています。

  いわゆる“マルチメディア”情報化の進展とともに、情報処理に関する学術・技術の、さらなる発展とそれらがもたらすであろう新しい情報化社会の構築に向け て、当学会の先導的役割への期待が益々大きくなっています。同時に、このような社会的要請に十分応えるために、従来の慣習や価値観にとらわれることなく、 自己変革していくことが求められているといえましょう。

 これらの背景から、現在、様々なレベルで学会活動の在り方が検討さ れ、活性化の諸施策が実行されてきています。活性化といっても、様々な側面があるわけですから一概には言えないのですが、学会の諸活動の多くがボランティ ア活動のうえに成立っていることを考慮すると、活性化のポイントは学会をできるだけオープンで身近なものとする“しくみ”を作ることだと思います。

 そうすれば、自分自身の努力が直接跳ね返ってくることで、会員は、ある意味でのギブ・アンド・テイクを実感できるわけです。そのとき、「会員の、会員による、会員のための(できれば、非会員のためにもなる)」情報処理学会であることを確信することでしょう。

 筆者が担当している調査研究活動は最も基本的かつ重要な学会活動の1つであり、いわば学会の顔です。従って、調査研究活動の活性化は、学会そのものの活性化に必須と考えられます。

  本制度の導入に際しては十分な時間もなく、走りながら考えることになりましたが、既に半年が経過し、徐々にではありますが各研究会の新企画や全国大会への 対応などに、自主性尊重の兆しがあらわれてきたと思います。無論、調査研究活動に関する今回の改革が成功するか否かは今後の活動如何ということになります が、取り敢えずスタートした『領域制』を大事に育てたいものです。

 ところで、この半年間の試行で幾つかの「個(の尊重)と 全体(の調和)」の問題を経験してきました。例えば、研究会を単位として考えるとき、個(研究会)の自主性と領域内の研究会全体の調和を如何に図るかとい う問題です。また各領域間では、個(領域)の独自性をどこまで認めるか、逆に全体としてはどこまでは統一すべきかなどです。

 さらに、調査研究活動と他の諸活動をいかにバランスさせるかも課題です。例えば、現在調査研究活動では会費の約5%相当分を学会からの補助として予算化していますが、その妥当性についても会員のコンセンサスが欲しいところです。

 このように「個と全体」は、常に大きな問題を提起しますが、その解決に際しては各会員が学会に何を期待しているかの視点を大切にしたいものです。

 冒頭でも触れましたが、当学会も変革の時期を迎えているのだと思います。しかしながら、いきなり学会全体の改革を唱えてみても、おいそれとできるわけでもありません。時間も必要です。そこで、先ずは小さな、しかし、本質的なところから確実に変えていく姿勢が望まれます。

  調査研究活動における『領域制』は、いわば個の常識を信頼し、自主性を尊重することで、研究活動への自主的参加を促し、その活性化をめざしたものです。今 後は、この『領域制』から、他の学会活動に様々な情報発信や提言を行い、学会全体の活性化に貢献することとしたいものです。その意味でも、『領域制』の進 展を期待して止みません。

(平成7年11月7日)

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