2018年度受賞者

2018年度コンピュータサイエンス領域功績賞受賞者

コンピュータサイエンス(CS)領域功績賞は,本領域の研究会分野において,優秀な研究・技術開発,人材育成,および研究会・研究会運営に貢献したなど,顕著な功績のあったものに贈呈されます.本賞の選考は,CS領域功績賞表彰規程およびCS領域功績賞受賞者選定手続に基づき,本領域委員会が選定委員会となって行います.本年度は8研究会の主査から推薦された下記8件の功績に対し,本領域委員会(2018年10月17日)で慎重な審議を行い決定しました.各研究発表会およびシンポジウムの席上で表彰状,盾が授与されます.

清木 康  君 (データベースシステム研究会)
[推薦理由]
 本会正会員清木康君(フェロー)は,永年にわたり高機能データベースシステムの研究,意味的連想検索の研究,関数型計算モデルによる並列データベースシステムの研究で多大の業績を上げ,国内外の研究を牽引した。特に,データベース群の上位レベルにメタレベル・システムアーキテクチャを設定し、メタレベルシステムへの問い合わせを可能とするメタレベル・データベースシステムを実現し、さらに、異種データベース間におけるデータのもつ表現形式および意味の相違を解消するための意味的連想検索方式として“意味の数学モデル”を示したことが主要な成果として広く認められており、国内外の多くの論文によって、“意味の数学モデル”の研究として参照されている。この発展的システムは、5次元世界地図システム(5D WORLD MAP)として、現在、国際連合ESCAP(United Nations: Economic and Social Commission for Asia and the Pacific)において、海洋環境課題(SDG14)の国際環境情報共有・検索・分析のためのグローバル・データベースシステムとして活用されている。本研究について、2013年には IEEE International Conference on Semantic Computing国際会議にて、Keynote Speakerとして講演を行った。
 また、同君は、情報処理学会データベースシステム研究会主査を4年間務め、その間、「情報処理学会論文誌:データベース」(TOD)の共同編集委員長として創刊・刊行を軌道に乗せ、加えて、本論文誌を電子情報通信学会データ工学研究専門委員会との共同編集とした。さらに、2000年には、ADBS(アドバンスト・データベース・シンポジウム)を発展的に拡張したDBWeb2000を開催し、TODとの連携、国内の研究プロジェクトおよび医療や建築など異分野との連携を進めた。DBWebはその後大きく発展し、現在ではこの分野における国内における有数のシンポジウムになっている。また、国際的な活動としては、2002年から現在まで、IOS Press の発行する学術雑誌Information Modelling and Knowledge Bases のチーフエディタとして編集を長年担当するとともに、この学術雑誌に関連して European-Japanese Conference on Information Modelling andKnowledge Bases の運営にプログラム・チェアとして長年携わっている。また、日本データベース学会理事、会長を歴任した。
 このように、同君は、我が国のデータベースコミュニティの興隆に極めて顕著な貢献がある。それに加、FIT2005実行委員長を務め、2014-2015年に情報処理学会 調査研究担当理事(コンピュータサイエンス領域委員長)としてCS領域の運営を担当するなど本学会への貢献も大きい.
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ソフトウェア工学研究会 国際的研究活動活性化ワーキンググループ
林 晋平 君、小林隆志 君、渥美紀寿 君、石尾 隆 君、
亀井靖高 君、肥後芳樹 君、伏田享平 君、吉田則裕 君
 (ソフトウェア工学研究会)
[推薦理由]
 国際的研究活動活性化ワーキンググループは,ソフトウェア工学研究会会員の国際的な研究活動の促進を目的として2014年度に発足し,それから毎年,有名国際会議(主に,International Conference on Software Engineering: ICSE)の勉強会(輪講)を主導している(活動は2011年より開始している).勉強会では,最新の研究動向を1日で把握することを主眼とし,毎年80編程度の論文に対して,それぞれの担当者が1編3~5分で論文の概要を発表する.また,各担当者の作成した発表資料をWebで公開している.
 参加者としては全国のソフトウェア工学研究者や実践者を想定しており,いくつかの大学をTV会議システムで接続している.2018年は7月13日に東京会場(東京工業大学),名古屋会場(名古屋大学),大阪会場(大阪大学),福岡会場(九州大学)を拠点として開催した.大学教員に対して,企業関係者や学生の参加者が多いのが特徴である.また,東京会場の模様をYouTube Liveで配信した.
 ICSEのような有名国際会議では,世界の最先端研究の成果が発表されるため,その内容を効率よく把握することは研究者や実践者にとって非常に重要である.一方で,このような国際会議は,ソフトウェア工学の全領域を網羅しているため,すべての論文の内容を短時間で正確に把握することは容易ではない.このような観点から,ソフトウェア工学の各領域の研究者や実践者が自身の専門に合わせて輪講を担当し,最先端研究の動向を互いに共有していくことはきわめて有意義である.
 以上より,ソフトウェア工学研究会では,本ワーキンググループにおける有名国際会議の輪講の活動をコンピュータサイエンス領域功績賞として推薦する.この活動は,輪講の担当者をはじめ数多くの研究者や実践者によって支えられているものの,会場の準備や担当者の割当てなど,主査および幹事の膨大な作業抜きでは成立しなかった.特に,全国規模でソフトウェア工学研究者や実践者を巻き込むことに成功したのは,主査および幹事の尽力によるところが大きい.また,これから研究領域を立ち上げていく若手研究者や,最先端研究の成果を現場に積極的に採り入れていく意欲の高い実践者にとって,有益な場を提供したという功績はきわめて高い.
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津邑公暁 君 (システム・アーキテクチャ研究会)
[推薦理由]
 被推薦者,津邑公暁君は,平成24~27年度,システム・アーキテクチャ研究会の幹事を務めたが,その時期に,研究会の WWW サイト http://sigarc.ipsj.or.jp/ を単独で立ち上げた.同サイトは,他研究会に先駆けて WordPress の機能をフルに活用した,デザイン上秀麗なもとなっている.立ち上げから5年以上経過した現在でも,企業等のサイトと比べても見劣りしない.
 情報処理学会全体としても WWW などを活用した情報発信を推進しているところであるが,同サイトが特に CS 領域の他の学会・研究会に与えた影響は大きく,領域全体の WWW サイトの機能・デザイン拡充の契機となったと考えらる.またサイト立ち上げ後も,幹事の任期終了まで,サイトを活用した情報発信に尽力された.
 このように,同君の果たした貢献は極めて大きく,CS領域功績賞受賞候補者として推薦するものである.
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許 浩沿 君 (システムとLSIの設計技術研究会)
[推薦理由]
 許氏はSLDM研究運営委員会の幹事を2016年度から2017年度の2年間に渡り務められ、合計8回の運営委員会の主催し、円滑な研究会運営に大きく貢献されました。また、2014年度から2015年度の2年間においてはSLDM研究会が主催するフラッグシップシンポジウムであるDAシンポジウムの実行委員を務められました。特に2015年度にはDAシンポジウム実行委員代表幹事として、シンポジウム運営にかかる業務のみならず、数年ぶりの実施会場変更にあたり会場選定から交渉まで粘り強く務められました。結果としてその後のDAシンポジウムは非常に好評を博しており、参加者数増にも寄与しております。
 上記のように許氏は近年のSLDM研究会の運営に多大な貢献をされており、SLDM研究会は、許氏をCS領域功績賞を贈呈するにふさわしい方であると確信致します.
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佐藤三久 君 (ハイパフォーマンスコンピューティング研究会)
[推薦理由]
 佐藤三久君は, クラスタコンピューティングやハイエンドなスーパーコンピューティングに必要な分散並列プログラミングの分野で多くの貢献を行ってきた.特に,近年のマルチコアプロセッサや共有メモリ並列ノードにおける標準的なAPIであるOpenMPに関わる一連の研究や分散並列環境をより平易に利用可能とする並列言語XcalableMPに関する研究は国際的に高く評価され,CS領域における研究の一潮流をなすものである.また,昨年度までJST-CREST「ポストペタスケール高性能計算に資するシステムソフトウェア技術の創出」研究領域の総括を務め,ハイパフォーマンスコンピューティング分野の主要な研究を主導すると共に,CS領域における人材育成にも貢献してきた.現在においても,理化学研究所計算科学研究センターにて,京コンピュータに続くポスト京の開発を行うフラッグシップ2020の副プロジェクトリーダーとして,次のフラッグシップシステムであるポスト京の開発に精力的に取り組んでいる.こうした研究・開発実績に加え,佐藤君は情報処理学会ハイパフォーマンスコンピューティング研究会主査,同CS領域委員長,同理事,情報処理学会論文誌コンピューティングシステム編集副委員長を歴任し,CS領域の発展に多大な貢献を行っている.これらの多年にわたる佐藤君のCS領域への貢献を評価し,同君をCS領域功績賞に推薦する.
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松本行弘 君 (プログラミング研究会)

[推薦理由]
 松本行弘氏が1993年にプログラミング言語Rubyの開発を開始し1995年にオープンソースソフトウェアとしてリリースしました.Rubyはオブジェクト指向型スクリプト言語であり,国際電気標準会議で国際規格に認証されており,これは日本で開発されたプログラミング言語としては初めての事例です.
 Rubyは,クラス定義,ガベージコレクション,正規表現処理,マルチスレッド,例外処理,クロージャ,利用者定義演算子などの機能を備えており,拡張ライブラリを作成することでC言語プログラムやライブラリを呼び出し可能という特徴があります.そのプログラムの可読性を重視した構文により,領域特化言語(DSL)のベース言語としてもよく利用されています.さらに,当初スクリプト言語として開発されたRubyですが,Ruby on RailsによりWebアプリケーションフレームワークとしても重要な位置を占めています.プログラミング言語としてのRubyからRubyに纏わるコミュニティについては,情報処理学会誌の特集記事(2015年12月)によくまとめられています.
 Rubyとその処理系はプログラミング言語の研究分野としても確立され,プログラミング研究会でも多くの論文が発表されており,今なお,研究対象として日本のプログラミング言語の研究分野に多大な貢献をしています.プログラミング研究会では,第30回研究発表会(2000年8月)においてRubyに関する最初の研究発表がなされ,以降,2018年8月までに45件の研究発表がありました.Rubyが多くの支持を集めた時期に呼応するかのように,プログラミング研究会でも2006年以降,Rubyに関する発表が増えていきました.とくに活発に研究発表された内容として,ガベージコレクションの実装,Rubyインタプリタ・コンパイラの設計と実装,並行・並列処理のための機能があります.また,これらの研究発表は実に様々な研究グループによって行われており,日本国内のプログラミング言語の研究の活性化にRubyが広く貢献したことを計り知れます.また,松本行弘氏が共著となられている論文も研究会で多く発表されており,さらに,松本氏自身にも「Ruby 3.0について」という題目で講演いただきました.
 以上のように,Rubyの開発を通じてプログラミング言語の開発だけでなく当該学術分野へ貢献された功績から,松本行弘氏をコンピュータサイエンス領域功績賞に推薦いたします.

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谷 聖一 君 (アルゴリズム研究会)
[推薦理由]
 候補者の谷聖一氏は,2005年に理事として特定非営利活動法人・情報オリンピック日本委員会の設立に携わり,2009年より専務理事を務め現在に至っている.当委員会設立以降,谷氏は一貫して日本情報オリンピック(JOI)の運営,および国際情報オリンピック(IOI)日本代表選手の選抜・強化・派遣に携わっており,当委員会の事業を牽引する中心的な役割を果たしている.特に,2011年以降はJOIの運営委員長を,2015年以降は,IOIの国際委員(日本代表)を務めている.IOIには2006年から2010年は日本選手団団長として,2005年および2011年以降は副団長・オブザーバー・随行員・国際委員として継続して参加しており,実務的な貢献だけでなく,国際的なプレゼンスも極めて大きい.
 IOIは,中高生を対象として毎年開催される国際科学オリンピックの1つである.通常のプログラミングコンテストとの違いは,問題解決のために効率の良いアルゴリズムを設計し,それを適切に実装するという数理情報科学の能力を特に重視している点である.谷氏は,理論計算機科学分野に強いバックグランドを有しており,JOIの開催,IOIへの選手強化・派遣を通じて,中等教育における数理情報科学,アルゴリズム理論の普及・啓発に努めてきた.実際にIOIではこれまで多数のメダリストを輩出しており,谷氏の果たしてきた貢献は計り知れない.
 情報オリンピック日本委員会では,小中高の児童・生徒を対象とした情報科学と‭ ‬Computational Thinking‭ ‬に関する国際コンテストであるビーバーチャレンジ (Bebras Challenge) を日本で開催している.谷氏は,このコンテストの開催を通じて,我が国の児童・生徒,また,学校の教員に数理情報科学と‭ "‬Computational Thinking‭" の概念に触れる機会を提供しており,初等中等教育における数理情報科学の普及啓発にも多大な貢献をしている.
 こうした活動の効果は目に見えにくいものであるが,最近,アルゴリズム理論や計算理論の分野に参入する学生や若手研究者の中に,こうしたコンテストで活躍してきた実績を持つ者が着実に増えている.すなわち,谷先生のような教育・啓発活動が,理論計算機科学分野への優れた人材供給につながっており,我が国の将来の情報産業を支える人材養成に大きく寄与することは疑いの余地がない.
 谷氏は,こうした活動をたびたび情報処理学会誌等に寄稿しており,情報教育の現状とその意義を発信し続けている.これらの貢献は,本功績賞に値するものであると確信している.
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二上貴夫 君 (組込みシステム研究会)
[推薦理由]
 二上貴夫氏は、組込みシステム教育および技術の普及に多大に貢献し、組込みシステム研究会発足に寄与いたしました。現在、本研究会で実施している組込みシステムシンポジウムでは、本研究会が発足する前の2003年からソフトウェア工学研究会で主催し、2004年より現在のESSロボットチャレンジを特別企画として、今年度に至るまで継続して実施しています。その際から2011年までの8年間企業の1フロアおよび事務局を、年間を通して無料でご提供いただき、学生や若手研究者・技術者が集う場となり、研究者や技術者が育成されました。この教育内容が文部科学省の教育事業enPiT-Embの原型になっております。また、2001年からUMLロボコンを主催し、これが2005年より現在のETロボコンと改名し、現在、ETロボコンは全国350チームを超える大規模な組込みシステムのコンテストに成長しています。さらに、以下の通り多くの実績があり、本賞に相応しい人物であると確信し、推薦いたします。

技術活動
1990 日本体育協会・日本オリンピック委員会科学研究 「ショートトラック・スピードスケートにおける滑走技術の三次元的分析」
2000 英国MIRA(旧自動車産業研究所)と日本自動車技術会のリエゾン
2002 NPO法人 TOPPERS 理事、監事
2003 IEEE Software ゲストエディター Model-Driven Development
2003 NPO法人 組込みソフトウェア管理者・技術者育成研究会 理事
2002-’04    UMLロボットコンテスト実行委員長
2005-現在 ETロボットコンテスト技術顧問
2007 MISRA-C2007 英国/日本リエゾン及びレビュー委員
2008 IPA組込みソフトウェア技術者スキル標準 キャリア部会 主査
2006 UML国際標準 (ISO/IEC 19501:2005)のJIS化委員 (X 4170:2009)
2010 文科省マルチサポート事業 「スピードスケート軌跡計測研究」
2014 IIC(Industrial Internet Consortium)日本リエゾン
2016 スポーツ庁ハイパーサポート事業 「パシュート計測研究開発」
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