「大規模データストリームのための履歴情報を用いたカーネル法の拡張」

平成21年度論文賞受賞者の紹介

「大規模データストリームのための履歴情報を用いたカーネル法の拡張」[情報処理学会論文誌 データベース Vol.1, No.3, pp.49-59]

[論文概要]

 動的な大規模データストリームに有効に作用するストリームカーネル法を提唱した。これは、データストリームのある時点のデータだけでなく、そこから遡及して得られるいくつかの履歴情報をまとめた構造データを入力に用いるカーネル関数の枠組みであり、履歴情報から得られるデータストリームの時間的変化を特徴にするものである。約70万件の実データによる実験において、ストリームカーネルによる非線形サポートベクターマシン(SVM)は,従来の非線形SVMよりも1.4倍の顕著な識別精度の向上を示した。



[推薦理由]

 データストリームは,新しいタイプの大規模データとして注目を集めている.金融や流通における取引記録やネットワーク監視システムの通信記録などその典型例であり,今後その応用の拡大が見込まれている.このような背景を受け,本論文では非線形サポートベクターマシンを利用した新たなデータストリーム識別手法を提案している.従来の機械学習やデータマイニングの手法では,時間とともに複雑な変化を伴うデータストリームの識別は困難であった.これに対し著者らは,リアルタイムのデータと過去の履歴データを組み合わせた畳み込みカーネルを提案し,その結果,識別精度を大幅に改善することに成功している.本論文は,技術的な内容の高さに加えて,今後幅広い社会的応用が期待されることから,論文賞に値するものと判断した.

都築 学 君

  1985年生.2007年公立はこだて未来大学システム情報科学部複雑系科学科卒業.2009年同大学大学院システム情報科学研究科システム情報科学専攻博士前期課程修了.現在、株式会社野村総合研究所勤務.

小西 修 君

  公立はこだて未来大学システム情報科学部教授.京都大学工学博士.京都大学工学部,名古屋大学プラズマ研究所,文部省核融合科学研究所,高知大学理学部を経て,2002年より現職.2008年より公立大学法人公立はこだて未来大学理事・副学長.主に、データからの学習,複雑系情報学に関する研究に従事.ACM,IEEE-CS,電子情報通信学会,日本データベース学会各会員.