「部分ゲームの解析結果を用いたカルキュレーションの戦略」(Vol.43,No.10)

平成15年度論文賞受賞者の紹介

「部分ゲームの解析結果を用いたカルキュレーションの戦略」(Vol.43,No.10)

[論文概要]
 カルキュレーション(calculation)はよく知られたトランプの一人遊びゲームで,成功率は運だけでなく戦略の優劣によって大きく影響される.人間のエキスパートによるこのゲームの成功率は3スタックで60% 程度,4スタックで約95% 程度と言われている.本論文では,カルキュレーションの部分ゲームを完全に解析して部分ゲームの成功率のテーブルを作成し,そのテーブルを用いてカルキュレーションの局面における評価関数を計算する方法を提案する.この方法と先読みとを組み合わせることで 3スタックで 約 72 %,4スタックで,約 99 % という高い成功率を実現した.

[推薦理由]
  トランプの1人ゲーム、カルキュレーションについては過去様々な解法プログラムの研究が行われてきたが、人間のエキスパートの水準にはなかなか達しなかった。本論文のプログラムは従来の研究をはるかに凌駕し、エキスパートの水準も超える驚異的な成功率を達成しており、理論的に考えうる上限にも近づいていると考えられる。同テーマの研究に1つの終止符を打ったものと言えよう。用いられている戦略もアドホックなヒューリスティックスを作り込むのではなく、「スタックゲーム」と呼ばれる部分ゲームを網羅的に解析し、その結果を用いる斬新なものであり、研究としての独創性も極めて高く、他のゲーム・パズル一般へも有効に応用しうると期待される。したがって直接的な成果においても、今後の研究発展への端緒としても、論文賞にふさわしい内容として高く評価できる。

田中 哲朗君  1965年生まれ. 1987年東京大学工学部計数工学科卒業. 1992年同大学院博士課程修了. 博士(工学). 東京大学工学部助手,東京大学教育用計算機センター助教授を経て,1999年より東京大学情報基盤センター助教授.