「大規模集計データへの差分プライバシの適用」

2015年度論文賞受賞者の紹介

大規模集計データへの差分プライバシの適用

[情報処理学会論文誌 Vol.56, No.9, pp.1801-1816]
[論文概要]

 データの有効な活用による社会・産業の発展への期待が高まる中,プライバシーを保護するための技術が注目を集めている.その中で,Dwork らによる差分プライバシーは,高い安全性から期待が寄せられているが,大規模データへの適用においてはデータの有用性や処理効率などの観点で実用上の課題を持つ.本論文では,地理空間データなどの大規模な集計データに差分プライバシーを適用する上での課題を示すとともに,これを解決する手法を提案する.本手法は,集計データの非負制約に着目し,その逸脱をWavelet 空間において補正する過程を導入して出力データの有用性と処理効率の向上を実現すること,さらに局所性保存写像の一種である Morton 順序写像を用いて地理空間データなどの多次元集計データへの適用時の精度劣化を抑制することを特徴とする.

[推薦理由]

 本論文は,ビッグデータを活用する際に問題となるプライバシの保護に関して,近年特に注目の高まっている差分プライバシを活用する上での実用性に関する3つの課題を示し,それらの課題を同時に解決するプライバシ保護法式を提案している.提案方式のアルゴリズムや安全性,計算量は理論的に定義,証明されており,実問題への適用例として地理空間データへの適用についても述べられている.その評価結果も従来手法より計算効率および精度ともに優れていることが示されている.ビッグデータにおけるセキュリティ分野の研究として,これからの研究分野全体の方向性をも変えかねない可能性を持っており,重要な論文として位置づけられると考える. 以上の理由により情報処理学会論文誌の論文賞に相応しいと判断し,推薦する.

寺田雅之 君

 1995年神戸大学大学院工学研究科修士課程修了,同年日本電信電話 (株) 入社.同社 情報通信研究所,情報流通プラットフォーム研究所を経て,2003年 (株) NTTドコモへ転籍.2008年電気通信大学大学院電気通信研究科博士後期課程修了.博士 (工学).2009年より現職.情報セキュリティ技術,プライバシー保護技術,大規模データ処理技術の研究開発に従事.電子情報通信学会会員.

鈴木亮平 君

 2010 年東京大学大学院情報理工学系研究科電子情報学専攻博士課程修了.博士(情報理工学).同年(株)NTTドコモ入社.ユビキタスコンピューティング,分散処理基盤の研究開発に従事.電子情報通信学会会員.

山口高康 君

 2001年電気通信大学大学院電気通信学研究科博士前期課程修了.同年,株式会社NTTドコモ入社.以後,携帯端末での撮影対象判別技術,権利価値流通技術,コンテンツ検索技術,統計情報作成技術,プライバシー保護技術の研究開発に従事.

本郷節之 君

 1984年岩手大学大学院工学研究科修士課程修了.同年日本電信電話公社入社.1987年ATR視聴覚機構研究所へ出向.1991年NTTヒューマンインタフェース研究所へ復帰.この間,視覚情報処理モデルの研究に従事.著書『脳・神経システムの数理モデル』(共著)他.工学博士.1999年NTTドコモマルチメディア研究所へ転籍.2001年セキュリティ方式研究室長.2010年北海道工業大学(現北海道科学大学)教授に着任,現在に至る.モバイルセキュリティならびにプライバシー保護技術の研究開発に従事.電子情報通信学会,IEEE各会員.