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最終更新日:2007年11月6日

 ソフトウェアジャパン2008 ITフォーラムセッション

 
ユーザスタディ フォーラム
「ビジネス・エスノグラフィ入門」

セッション概要
従来の仮説検証型のユーザ調査に限界を感じ,エスノグラフィに代表さ れる仮説構築型の調査技法に注目を始めている.しかし,これまでのエスノグラフィは,長期間にわたるフィールドワークと解釈の繰り返しによって成立し,また,プロセスの標準化が進んでいないことなどから,時間や人材に限りのあるビジネスのフロントラインでは導入しづらいと いう問題があった.そこで,本セッションでは,エスノグラフィの本質を生かしつつ,企業のビジネスプロセスに則った調査技法を紹介する.「ビジネス・エスノグラフィ」と呼ばれるこれらのテクニックは,講演者らによって開発・体系化が進められているものだが,同様の流れは,米国で2005年に開始された,EPIC(Ethnographic Praxis in Industry Conference)という国際会議の存在にも見て取ることができる.本セッションでは,合わせて,2007年10月に開催されたEPIC2007における主要な話題をまとめて紹介する.

司会 矢島 彩子 (富士通(株)生産革新本部 ソーシャルサイエンスセンター)
【略歴】1996年,岩手大学人文社会科学研究科修了.東京大学文学部心理学研究室で事務補佐員の傍ら,2001年,聖心女子大学文学研究科博士後期過程単位取得退学.同年(株)富士通研究所入社.2006年より現職.エスノグラフィーをベースにした業務実態を把握するフィールドワーク手法開発に従事した後,現在はお客様のフィールドイノベーションに貢献するべく,現場直結で企業におけるフィールドワークの普及とそのあり方について模索中.

プログラム [会場: 5F 503C]
講演(1)

13:15-14:05

 

「ビジネス・エスノグラフィ入門−技法と実践」

 田村 大 ((株)博報堂 研究開発局 上席研究員/
         マーケティングセンター フォーサイト部 リサーチディレクター)

講演概要
ここ数年,米国で話題になっている,デザイン思考によるイノベーションとは何だろうか.本講演では,上記トピックの根幹を成すエスノグラフィ手法,すなわちフィールドワークとその結果解釈に基づくストーリー生成のプロセスについて,米・IDEO社などのケースを交えながら概略を紹介する.また,当該プロセスを国内企業の意思決定に資する際に欠かせないノウハウについても,講演者の経験を踏まえた解説を行う.上記のようなビジネスにおけるエスノグラフィの活用を,講演者らは「ビジネス・エスノグラフィ」と称して,特に国内企業での適用を考慮した緩やかな体系化を進めている.ビジネス・エスノグラフィがこれまでの市場調査技法と大きく異なるのは,「仮説を構築する」ことを目的とする点である.そこで,本講演では,仮説構築に不可欠な概念,運用メソッドの理解を特に重視した内容を企画している.

略歴
1994年,東京大学文学部心理学科卒業.2005年同大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学.1994年博報堂入社,2000年より現職.情報科学,認知科学を専門とし,ヒューマンファクターに基づく新たな情報技術の発案と開発を推進する.最近は人間の創造性を高める技術に関心を持ち,様々なシステムの開発と評価を通じて,あるべき技術の姿を模索する.著書に『センサネットワーク技術』(共著・東京電機大出版局)など.

講演(2)

14:15-15:15


「ビジネス・エスノグラフィ−米国最新事情 -EPIC2007報告-」


講演概要
エスノグラフィの産業界での実践を扱う国際学会であるEPICでは,学者だけでなく,企業で働くデザイナー、マーケティング担当者,広告クリエイティブ担当等が参加して,エスノグラフィの応用事例や調査手法について,現在から将来の動向までが包括的に論議された.エスノグラフィの産業界への応用は,これまで米国を中心に発達してきたが,日本においてもサービス・商品開発や組織編成におけるイノベーションにつながる新しい手法として展開できる可能性がある.本講演では,EPIC2007で発表された最新事例の紹介を中心に,エスノグラフィの日本における展開の可能性や課題について考察する.また,「仮説検証型」の量的アプローチとは異なり,「課題発見」に適した質的アプローチであるエスノグラフィの様々なビジネス領域での実践事例を俯瞰しつつ,実践する側からその意義や課題ついて問題提起したい.
 
新井田 統 ((株)KDDI研究所 特別研究員)
略歴 
1994年,横浜国立大学工学部卒業.1996年,同大学大学院工学研究科修士課程卒業.1996年,株式会社KDD(現KDDI株式会社)に入社してKDD研究所配属,2006年より現職.心理学・社会学的知見に基づくユーザーセントリックなアプローチによる,コミュニケーションサービスの品質評価手法の研究に取り組む.携帯電話技術の研究者としての経験を生かし,学際領域で研究を進めている.
 

久保隅 綾 (コニカミノルタテクノロジーセンター(株)イメージング文化研究所 研究員)
略歴 
2001年,明治大学法学部卒業. 2007年〜東京大学大学院学際情報学府修士課程在学中.2001年,コニカ株式会社入社,2003年より現職. 生活者調査,ライフスタイル・ワークスタイル調査に従事. ユーザ観察,フィールドワークなどのエスノグラフィ手法を用いて現場のリアルな課題を発掘し,ヒューマンセンタードな視点から未来のニーズを探る.主な関心はテクノロジーと人とのかかわり,IT・メディア利用とコミュニケーションについての実証的研究など.