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最終更新日:2003.11.28
2.学会誌
2.1学会誌改革への新提言
学会誌を多くの会員にとってより魅力あるものとするために、これまで数年間にわたり学会誌改革に対する多くの検討および提言がなされてきた。従来から指摘されてきている問題点は、大きく「魅力のある学会誌の実現」と「経費の節減」の2点に集約されると言える。これらの問題点に対し、編集委員会および学会事務局の改善の努力が継続されており、その顕著な効果も現れてきている。一方、克服しがたい制約事項もある事から、ここでは、過去の検討ならびに改善の取り組みに対する効果を分析するとともに、現状の問題点を再整理し、従来からの改善提言にはない思い切った改革案を提案することを目指す。
2.2学会誌への期待
3万人規模の会員数にもなると、情報処理学会の会員となった動機が、研究者、開発エンジニア、営業などの職種やその専門分野などが異なることから、会員の学会誌に対する期待もさまざまであろうが、ここでは大きく研究者と実務者からの学会誌に対する期待としてまとめてみる。
1.研究者の期待 :
研究者は自身の専門分野を学会誌に期待していない。研究者としての情報源は、論文、コンファレンス、特許、専門誌などである。
研究者でも自分の専門分野以外の最近のホットな話題を総括的に正しく理解したいことが多く、その技術、その技術動向、応用分野に興味があり、雑誌では紹介されないようなその分野の専門家たちのより詳しい技術説明、その技術の将来方向、その将来技術の実現に向けて何が問題で何を今後研究開発をしていかなければならないかなどを、その道の専門家から見た意見を知りたい。
研究者といえども、学会誌に期待するトピックスは主に専門分野以外であるので、その分野に対しては素人であり、説明のわかりやすさは必須である。
2.実務者の期待:
最近のホットな話題を総括的に正しく理解したいことは、研究者の場合とそれほどの違いはなく、やはり雑誌では得られないような情報を期待していると言える。
とりあげるテーマがキーであって少し内容が学術的になっていてもそれが大きな弊害にはならない。もちろん説明のわかりやすさは必須である。
実務者が好むテーマは若干、研究者の好みとは異なっている場合がある。それは、実務者は、比較的に短期的な視点でとらえているので、たとえばその技術がビジネスに役立つのはいつで、さらに何が解決されなければならないかなどである。
すぐにでも対策をたてていかなければならないようなPre-emergingあるいはemergingな領域のテーマは歓迎される。
2.3現状の課題
「魅力のある学会誌の実現」と「経費の節減」の課題に対して、編集委員および学会事務局の改善努力でかなりの効果も現れてきているが、いまだ改善の余地のある課題も多い。
1)編集体制と運営
学会誌編集委員長の専任者がおらず、かつ担当理事が一年交代で任についているために以下に示す問題が生じている。
学会誌編集委員長の専任者がおらず、かつ担当理事が一年交代で任についているために以下に示す問題が生じている。
学会誌には「学会誌としての一貫性」が要求されるが、現在の体制では担当者によってアプローチが異なってしまい一貫性を確保するのは難しい。
テーマの選定やわかりやすさなどで編集のノウハウがあるが、その蓄積やエキスパートとしての能力発揮ができない。
取り扱うテーマの選定は、6つのWG(基礎、ソフトウェア、ハードウェア、アプリケーション、実務、文献)からボトムアップ方式であがってくるために以下に示す問題が生じる。
WGからのテーマを順次採用していくようになってしまうので話題性のあるテーマをタイムリーに出せなくなる。
WGからあがってこない話題性のあるテーマをトップダウンで選定する仕組みがない。
2)学会誌の構成およびテーマの選定
約7割を占める実務家会員にとって、学会誌は学会との唯一の接点で有るが、商業誌と比べ魅力が乏しい。商業誌編集長のプロの目からも同様の評価を受けた。
学会誌はまだアカデミア向けの堅く難解な論文が多い。 CACMのように、産業界向けに工夫が必要。最近は実務家向けの事例記事を載せているが、まだまだ少ない。
4)広告収入が極めて少ない。広告主にとって、学会誌は魅力に乏しい。
学会誌:年間約1000万
商業誌:日経BP系;年間約3〜4億円
信学会:年間約1億円
2.4過去の取り組み方策の効果と限界 (制約条件の整理)
1)コスト削減
<実施した改善策の例>
学会誌の大幅ページ削減(ダウンサイジング)
OA化
事務局の直営編集、校正
広告営業活動の直営化
<効果/評価>
編集委員会および事務局の多大な努力でコストの半減の成果を出している。
現状のコスト削減努力は限界と判断される。
2)実務家向け記事の充実
<実施した改善策の例>
実務「事例」
「情報処理最前線」
「ニュース」
<効果/評価>
「事例紹介」については、実務家のそれなりの評価と期待を得ている。
できる範囲の企画的改善は実施しているが、実務家の興味にタイムリーにマッチさせるためには、テーマの企画、選定について商業誌センスを持つ外部の支援が必要。
3)読み易さ、見やすさ
<実施した改善策の例>
図・写真の活用の促進
分かり易い文章執筆の喚起
執筆要領の見直し
<効果/評価>
現状は執筆者の原稿を尊重するため思い切ったリライトは不可能。またリライトできる稼働とエキスパート・スキルが無い。
基本的に編集側にリライトを自由に可能とする編集権限が必須。
4)体裁の商業誌並みへの改善
<現状と評価>
カラー化、図表化、A4への大版化などは可能性があるが、イラスト・デザインの外注化は財政的に困難である。
商業誌は学会誌の5〜6倍のコストをかけている。
5)編集委員会の体制、運営
<実施した改善策の例>
委員会運営の効率化
モニター制度
実務家向け記事のWG(PWG)の追加
<現状と評価>
今までの改善案を効果的かつ持続的に具体化し、また企画/編集に機動性を持たせるためには下記の点で限界がある。
専任委員長を置いていない(かつ委員長相当の理事の任期は一年である)ことによる限界。
WGからのボトムアップ方式だけでのテーマ選定、編集企画の限界。
2.5改革への新しい提言
2.5.1学会誌改革への提言案
1)従来の改善の限界を超える思い切った改革案として、以下の二案を提言する。
「任期2年以上の編集長配置体制」
「外部出版社とのビジネス提携による編集、出版業務の事業化検討」
検討の進め方として、
案については実施内容を具体化し、理事会の承認を得て速やかに実施に移行する。
案については、編集・出版業務をなんらかの形でアウトソーシングすることは当学会の中期ビジョンとして重要なテーマであり、また複数出版社からも合同検討の申し出もある。また、部分的に部外の力やノウハウを借りる検討も1.案の補強として有意義と思われることから、1.案と並行して検討を進める。
2)改革の検討
両案の改革実施内容の具体化:97年10月
「編集長方式」の決定:97年12月、98年1〜4月実施
「外部との事業化検討」は、年内までに複数社(オーム社、日経BP社)と連携した事業化内容、範囲、事業化成立の可否判定、段階的実施方法等を詰める。
2.5.2任期2年以上の編集長方式
2.5.2.1概要
2.4で述べたように、今までに、学会誌の改革・改善を意図した数々の提案がなされ、すでに多くの成果を挙げているものの、今後ともたゆまぬ改革・改善の努力を継続的に行なうことは、学会がこの種の事業を効果的に推進する上で不可欠のことから、
学会の主体性を損なうことなく、
財政的な負荷を最小限に抑えつつ、
「魅力のある学会誌の実現」に向けて、今までの各種提言を効果的かつ持続的に生かす体制を確立する。
そのために、(社)情報処理学会定款第6章(編集)第25条、第26条の定めに則り、
編集長を置き、
任期2年、最大2期再任可能な、「継続的な編集責任者をヘッドとする編集責任体制」0導入(「任期2年以上の編集委員長(編集長)方式」)し、
一貫した編集方針のもとに機関誌の恒久的向上を図る体制を確立した上で、
編集委員会の体制の見直しを含めて、今までに取り組まれた学会誌の改革・改善を意図した数々の提案の実現に取り組む、べく、体制の改革を行なう。
1)運営形態
学会の自主事業(従来通り)
編集人(編集長)
発行人 学会事務局長(従来通り
2)事業責任
学会(従来通り)
3)編集、企画
編集・企画作業は編集理事会のもとに学会誌編集委員会を置き、学会が行う(従来通り)。
話題性のあるテーマ(多くはPre-emerging あるいは emerging な領域)をタイムリーに扱う。
情報処理最前線や特集でとりあげるテーマは、できるだけ実務者好みのビジネスとの関連の深いテーマが望ましい。
当分ビジネスとは関連しないが、興味深いニュース性のある学術的なテーマも一つのコーナーを設けて紹介する。
テーマは一年先まで固定的に決めず、話題性のあるテーマはタイムリーに扱えるようにする。
商業誌では得られないような、技術動向、将来ビジョン、解決すべき問題点、その技術の限界などその専門家からの視点から解説する。
特に、特集でのテーマの総論はだれが読んでもわかるように心がけ、各論は専門的になってもよいと考える。
わかりやすさを追求する。
学会誌を更に読み易く、分かりやすくするため、リライトを可能とするとともに、執筆ルールをきめ細かく定める。
特に特集のテーマの総論は、商業誌なみのわかりやすさ、読みやすさを追求し、できるだけ図や絵を用いて解説する。また、専門用語の解説や補足説明を充実させる。
4)編集長
編集長は会長が選任する。編集長は理事会に出席し、意見を述べることができる。(定款第6章第26条の規定による。)[但し、編集長は学会員であることを原則とすることが望ましい。]
編集長の任期は2年とし、最長2期まで再任可能とする。[継続性確保のため。]
編集長は学会誌編集委員会を主宰し、学会誌の企画・編集を統括する。
編集委員長は編集担当理事とともに編集理事会を構成する。
編集担当理事は、主に学会の経営・財政の立場から学会誌発行に関する責任を有する。
編集長に対する経済的処遇は、基本的には他の学会役員に習うことを原則とするが、必要に応じて経費の実費を学会が負担できるような運用が望ましい。但し、負担額に上限を設ける。
5)新学会誌のポジショニング
学会機関誌としての信頼感を獲得できる記事・内容を基本としつつ、実務家を含む広い読者層の要望に応える企画・編集を特徴とした、商業誌では真似のできない学会誌を目指す。
会員相互の情報交換による研鑽と交流の場を、会員へ提供。
ニュース性を保持したタイムリーな話題を、専門家集団としての評価フィルターを通して読者に提供。
研究、技術、実用システム等を、情報処理技術の専門家集団として学問的/技術的な観点から整理し体系付けを試みて読者に提供。
情報技術の動向や将来ビジョンを、情報処理技術の専門家集団の立場から発信。
学生や初学者の資質の向上のための情報処理技術に関する情報の提供。
6)原稿の構成
依頼原稿を中心とする(従来通り)
分かりやすい原稿とするための執筆依頼の見直しと、執筆者への協力方の徹底を図る。
7)企画の進め方
現在のWG方式によるメリット(安定した編集体制、編集委員の主体性の尊重)を活かしつつ、機動性を持たせるための体制を整備する。
8)備考
導入時期:
早急に移行準備組織を発足させ、平成10年度から新体制へ移行する。
移行措置:
平成9年度は移行期とし、編集/体制に関して柔軟な対応を可能とする。
2.5.2.2効果の評価
1)<長所>
情報処理学会の編集責任の下で会誌の発行を継続できる。
一貫した編集方針のもとに機関誌の恒久的向上を図ることができる。改善提案を効果的かつ持続的に生かす体制が実現する。
継続的な編集責任者をヘッドとすることにより、ボトムアップとトップダウンのベストミックスを実現することが可能となり、学会誌としての編集戦略やシナリオを、タイムリーなものに改善されることが期待できる。
情報処理学会が有するさまざまな(かつ相反する)特質や制約条件の中で、バランスを保ちつつ編集作業が行わる。その結果、編集方針が、極端な商業主義、極端な効率主義等、今までの「研究活動ならびに学会活動にアクティブな会員層」の議論から推察される彼等の意向に反す方向に片寄ることを避けることができる。
最近芽生え始めてきている、学会事務局の編集実務機能を効果的に生かすことが可能になる。
2)<短所>
場合によっては人選に難航することが予想される。(一案は、過去に会誌の編集を担当された理事経験者)。
編集担当理事の役割が不明確になる恐れがある。
ボトムアップとトップダウンのベストミックスとしたところで、WGの努力と協力に大きく依存する体制であることには変わりがないために、WGのモラールと責任感の持続が不可欠であるが、この点に対する新体制の影響が十分に予測できない。
2.5.3外部出版社とのビジネス提携による編集・出版の事業化検討
2.5.3.1概要
過去10年にわたり、学会誌の改革、改善は多々努力・実行して来たが、学会単独では財政的に専担の編集長や記者を配置することは困難であることから、
記者による取材原稿の作成
読者に見易く、分かり易くするための依頼原稿の大幅なリライト
学会誌のイメージを一新しての広告収入の大幅増大、広告スポンサーへの魅力増大等の乗り越え難い基本的制約があり、これを思い切って打破するには、外部とのビジネス提携による編集・出版事業の抜本的改革が必要である。
当学会として、中期将来計画として米国のACMのように、編集・出版業務を学会誌に限らず幅広くビジネスとして事業化することを具体的に検討する必要がある。
このため編集・出版業務の事業化を、外部の出版社と合同でフィージビリィ・スタディ(事業化検討)を実施する事としたい。
出版社側へも打診した結果、複数社が合同検討に応じる意向を確認している。
フィージビリィ・スタディを複数出版社とそれぞれ行い、本年10月までに事業化の可否判定し、来年2月までに実施計画の決定を行い、来年度4月より実施する。
1)事業運営形態
学会から出版社へ出版関連業務を委託する。
委託する範囲は、学会誌をはじめとする出版物の企画、編集、制作、広告営業、販売、配送とする。
2)編集、企画
企画編集編集委員会は、学会と出版社から数名づつメンバーを選定し合同で行う。
専任の編集長は、出版社から出す。
テーマ選定、企画には、編集長裁量が発揮できるようにする。トップダウンでのテーマ追加、変更等。
3)新学会誌のポジショニング
実務家向けの技術雑誌として、下記のような商業誌とは異なるポジションを占め、興味を引いてかつ話題のテーマの理解を深める存在感のある学会誌(雑誌)となる。
商業誌:
内容は浅いが、ホット、新鮮なテーマの扱いが売り物。
新学会誌:
最近話題のテーマを体系的に、深掘りした解説を提供する。
内容、編集は、実務家に焦点を当てたテーマ選定、解説とする。
4)原稿の構成
依頼原稿だけではなく、取材原稿や新製品紹介も入れる。
5)原稿のリライト
依頼原稿の大幅なリライト権限を持たせ(リライトを可能とする依頼ルールとする)、読者に分かり易く、読み易くし、図表、イラストも盛り込む。
6)取材先、原稿依頼先は、学会の編集委員メンバーが積極的に紹介する。
7)広告収入の大幅な増収を実現する。
広告収入を現状より大幅に増大させないと、出版事業は成立しない。
広告主から、魅力ある雑誌(学会誌)と評価を得るように新学会誌のイメージを一新する。
新製品紹介も、積極的に行う。
読者の問い合わせが、広告主へ大いに寄せられるようにする。
8)新学会誌は、販売部数と読者を増やすため、出版社の販売網を活用し積極的に外販する。
定期購読者には、イベント、セミナー等のインセンティブを与え、学会の会員となるよう勧誘する。市販により、学会会員の増加を狙う。
2.5.3.2効果の評価
1)<長所>
新学会誌として抜本的に刷新され、魅力ある学会誌(雑誌)となる。
読者の多い実務家向けの話題のテーマを扱い、分かりやすく見やすい内容になる。
記事内容も、話題のテーマの体系的解説、掘り下げ解説が期待できる。 旬を追う商業誌と異なる存在感ある雑誌となる。
実務家の多くに読まれる、役立つ学会誌となる。 市販より会員は2割程度安く会費として提供し、会員へインセンティブを与える。
結果として、実務家会員の減少の歯止めと会員増が期待できる。
当学会が米国ACMのように、中期的に出版事業のビジネス化を行う格好のステップとなる。
2)<短所>
学会誌としての性格、存在感が薄れる。
この事業形態で経営的に成り立つか?
学会誌と商業誌の中間的性格となり、存在感を長くキープできるか。