Vol.60 No.1(2019年1月号)
Vol.60 No.1(2019年1月号)
H.K
[ジュニア会員] 大学生 |
100年後のコンピュータ科学はどんなことを研究しているの? |
|
コンピュータが生まれてまだ100年経っていません.そのような若い学問の100年後を想像することはとても難しいのが実情です.コンピュータ創成期には大ぐくりには,ハードウェアとソフトウェアという分類であったかと想像されますが,現在の情報処理学会では,約40の専門分野に分かれています.この数は,世界最大のコンピュータに関連する米国の学会ACMもだいたい同じです. |
喜連川優
[正会員] 国立情報学研究所 |
|
目次に戻る | ||
和田英一 [名誉会員] IIJ技術研究所 |
リスト,スタック,ハッシュなどプログラミングの主要技法は計算機が出現して数年のうちに発明され,後に再発見されているだけという人がいる.そのほとんどがDavid Wheelerによるという人もいる. コンパイラの開発法,演算回路の設計法は確立され,世はインテルとマイクロソフトの製品で満たされた. 今でも新プログラミング言語が時々発表され,計算モデルの提案も後を絶たぬが,インパクトのあるものは少ない. 要するにコンピュータ科学はすでに終わったと見てよい. パソコン,ネットワークの登場時にはしばらく活気づいたが,今後劇的な進化はないであろう. ユニークな新製品は期待されなくもないが,未来は応用が主流になる. |
|
「シンギュラリティ」が話題になっている今日,100年後を考えるなんて随分悠長な人ですね.シンギュラリティは物理学的にはビッグバンやビッグクランチ,あるいはブラックホールなどの特異点のことですから,その向こうは予測不能です.技術は加速しています.コンピュータが誕生してから今日まで約60年ですが,同等の変化は今後は5〜10年でやってくると考えています.ですから,正直な話,10年後を語るのも難しいと思っています. |
中島秀之
[正会員]
札幌市立大学
(公立はこだて未来大学 名誉学長)
|
|
目次に戻る | ||
加藤 淳
[正会員]
産業技術総合研究所 |
コンピュータ科学は,人の手で発明され継続的に改善されているコンピュータを対象とした学問なので,この質問は100年後のコンピュータ像から考える必要があります. |
|
まず,コンピュータ科学はいつ誕生したのか,を問うてみますと,1936年のチューリングの計算可能数に関する論文に求めるのが有力のようです.それから80年,コンピュータ科学は巨大な学問分野となり,今日の情報化社会の創出に大きな貢献をしてきました.過去80年の大進化を見るにつけ,100年後の予想は妄想となること必至です. |
小野寺民也
[正会員]
日本アイ・ビー・エム(株)
東京基礎研究所
|
|
目次に戻る | ||
福地健太郎 [正会員] 明治大学 |
100年後を考える前に,100年前やもっと前のコンピュータ科学について考えてみましょうか.Charles Babbageの階差機関やJohn William MauchlyらのENIACでは,信頼性の高くない部品にどうやって確実な計算をさせるかが課題になっていました.歯車の精度に悩んだり,真空管が壊れても計算を続ける手段を考えるのが,当時は最先端の問題だったのです.研究が進むにつれ部品の信頼性は向上し,それらが確実に動くことを前提にいまのコンピュータ科学は築かれ,大きな発展を遂げました. |
|
あらゆる科学技術は進化を続けていますが,コンピュータ科学は,それらを加速させるといった重要な役割を担っています.コンピュータ科学は,その黎明期には,計算機やプログラムに関する基礎理論やコンピュータ上への実装やコンピュータシステムを利用した応用に関する研究が推進されてきました.計算機システムとしては,単体のコンピュータから始まり,タイムシェアリングシステム,並列システム,分散システム,インターネット,ユビキタス,モバイル,クラウド,IoT/CPS,深層学習など次々と新しい技術,計算環境,情報空間を創出し,社会を支える情報インフラとして活用されてきました.現在は,情報を扱うすべてのテーマと関連し,自然科学だけでなく社会科学の基礎をも支えるメタサイエンスとしての学問分野に成長しています. |
徳田英幸
[正会員] 国立研究開発法人情報通信研究機構/慶應義塾大学名誉教授) |
|
目次に戻る |